ぼくらのひみつ


「杉浦さん杉浦さん」

背後から呼び止められて振り返る。
菅野の声。
仙台支店の23階、エレベータに向かおうとして呼び止められた。

シャッター音。
振り向きざまの間抜けな顔を撮られたようだ。

「なに?」
「へへへ。もう一枚撮らせて下さい」
「うん、一枚と言わず、何枚でも」
「本当ですか?じゃああと5枚下さい」
「何に使うの?」
「一枚は着信用。ホーム画面とロック画面と、あとはそうだな、カバー作ろうかなー」
「……うー……そう言うのに使うなら、いいけど、ツイッターとかフェイスブックは勘弁してね」
「わかってますってー」

口元をバタフライで押さえて。
瞳だけはキラキラして。目の形はニヤニヤの弓なりで。上目遣い。ほんの少し顔を傾けて。

ぶりっこカンカン!
杉浦の脳内で竹中が叫んでいた。

「すぎうらさん」
小声で呼ばれたから、屈んで耳を菅野に近づける。
「あとで僕の写真も撮っていいですからね。ゆっくり。あとで。ホテルで待っててくださいね」
囁かれて。吐息がくすぐったい。
うんわかった、と返事する前に、耳朶を軽く齧られた。
思わず身を捩る。
菅野が声を殺して肩を震わせ笑う。やはり口元はバタフライで隠したままで。

誰かに見られるかもしれないと言うのに。
平然とこんな事をする。

「あとでね、杉浦さん」
「うん、あとで」
小さく手を振り合い、降りてきたエレベータが開く。
杉浦だけ乗り込む。
フロアに残る菅野を見つめる。
菅野が口からバタフライを離した。

菅野の唇が動く。


あ い し て る よ


口の形だけで。確かにそう動いた。

杉浦も答える。音にはせずに。


ぼ く も


エレベータのドアが閉まる。

しばしのお別れ。
多分ほんの2時間ほどの、お別れ。



20120805 完結

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