最悪のファーストキス。
忘れもしない、忘れなきゃならない忘年会で。

竹中がそのクジを引き当てた。

「やったわぁ!タケが王様なんですケド!」
はしゃぐオカマの部下に杉浦は一瞬和む。
オカマとは言え可愛い部下の一人。
今日は仕事の事は忘れ、楽しむ一晩。
忘年会なのだから。
明るいオカマの竹中に笑っていた。
杉浦は向かいの席に座る竹中に尋ねる。
「王様、きつい奴は勘弁してね?」
言いながら笑みが零れる。酒のせいか。
竹中はニコニコと笑って答える。
「冗談じゃないですスギサマったら。こんだけ男子も女子もオカマもいるのよ?激しいのやるわよぉ!5番と7番がディープキスぅ!」
今時王様ゲームとは、発案者の久保課長も笑わせる、と思っていたが。
ここまで盛り上がるならそれも有りだ。杉浦はそう思った。
10人中6人が女性。
可愛らしく女性ヘルパーから頬にキスくらいは受けたい、等と思っていたのに。

杉浦は手元の箸を凝視する。
5番。
まさか竹中、自分は7番なのか?
席の端からしっかりした声が聞こえてきた。
「竹中さん、僕が7番だよ」
菅野だった。
竹中が奇声を発する。
「はーい7番カンカンですぅ!県内一の一見優男のお相手だぁれ?秋山さん?ヤマミー?女子ぃ?それとも久保課長ですかぁ?」
場が盛り上がる。
杉浦は何も言えずに固まった。
男かよ。
菅野くんかよ。
何してくれてんのタケちゃん。
そうして席に着く全員が自分の振り当てられた番号を言って行くと、視線が杉浦に集まった。
「…タケちゃん、キスとかちょっと…」
嫌だな。
空気を読まずに思ってみる。
いつもならノリでそれくらいならしてしまうだろう。
ウケたらそれでいい、後は滑っても知ったことじゃない。
そんな風に思える自分なのに。
何故か席の端にいる菅野の方を見られない。
菅野の視線が向いているのを肌で感じる。
菅野の目が大きいからだ。
あんな大きい瞳で見られたら男だって照れてしまう。
これが久保課長なり、或いは竹中であればこんな妙な気持ちにはならなかったと、後で杉浦は思う。
「杉浦さん」
菅野の声。
振り向くのに力が必要だった。
「菅野くんだって男とキスするなんて嫌でしょ、女性の方が…」
竹中を中心として、周りがブーイングを起こす。なんの為の王様ゲームだとか、空気読んでくださいよ杉浦さんだとか。
その中で菅野ははっきりとこう言った。
「キスなんて口と口が触れるだけじゃないですか」
菅野らしい笑顔で。
拍手が起きた。
菅野は立ち上がり、杉浦の席までやってきた。
周囲が一斉に携帯電話を取り出しカメラの準備をする。
さすが、携帯電話会社勤務の皆さんですね!杉浦は心の中で叫んだ。
「空気読んでここは潔く軽くチュッてしたらおしまいですって杉浦さん」
「やだぁカンカン羨ましい!タケのスギサマにチューできるなんてぇ!」
黙ってろオカマ、そんな事さえ思えず。
杉浦は菅野の大きな瞳に釘付けになった。
真っ直ぐに杉浦を見つめて来る。
離せない。
視線を離せない。
何故か鼓動が激しくなる。
それは。

恋をしたように。

菅野は宣言した。
「皆さん、いい写真録ってくださいねぇ。後で送ってよ?」
携帯を構える周囲。
菅野が杉浦の頬に片手を添える。
次に、唇が重ねられて。
フラッシュが眩しくて。
その一瞬の間に杉浦は菅野に舌の侵入を許し。
どうしてなのか自分でもわからないまま、その舌を自分の舌で捉え反応した。
柔らかい唇と生暖かい舌に。
反応したのは舌だけでは勿論、無かった。

竹中が絶叫する。
「さすがカンカンですぅ!ちゃんとディープキスですぅ」
竹中の雄叫びが終わる頃、菅野は杉浦から口を離した。

勃起している自分が情けなくて、それでもどうにかしたくて、なのに菅野から目が離せない。
杉浦は手元のビールを多めに煽った。
誰も杉浦を見ていない。
全員菅野に盛大な拍手を送っていた。

その後のゲーム展開は、久保課長のハーレム、女性同士の本音の言い合い等、どぎつい物もあったが。
杉浦の脳の中はそれどころでは、無かったのだ。



20090516完


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