真夜中のテンション


年末商戦などと量販各店は大騒ぎし出す11月後半。

「ケータイ売りにはあんまり関係無いですからねえ」
「そうだねえ。前みたいにカップルで買ってくれるような端末とかプランがあればいいんだけどねえ」
「クリプレにタブレット買ってくれたら良いんですけどねえ」
「あれ?QOQOのタブいつ発売だっけ」
「23?26?29かな?忘れました。ナカタマさんにメールしてみたらどうです?ナカタマさん喜びますよ」
「タマちゃん喜ばせるとうちのハイジマまた今週末、新規シェア負けちゃうよ」
「……また自慢ですか杉浦さん」
「え?何が?どこが?」
「『タマちゃんに僕がメールするとタマちゃん本当に喜んで元気なっちゃって僕を励みにたくさん売るからなあ。僕の影響力って凄いなあ』ですか?」
「なんだよそれ。そんな事言ってないよ僕。考えてもいないよ」
「少なくとも僕にはそう聞こえました」
「かんちゃんねえ、君最近ホント捻くれてるよ。昔の素直な可愛いかんちゃんはどこに行ったの」
「今の僕の方が素直です。やきもち妬いてるだけです」
「自分でタマちゃんの話題振ってきた癖に……」

そう言う菅野は「ナカタマの調教師」遠藤マリヤに慕われている。
それを冷やかしても菅野はニヤニヤ笑ってさも当然、と言う表情になるだけだとは思う。だから言わない。

杉浦はベッドから天井を見上げていた。
右腕の中にはうつ伏せの菅野。
部屋に備え付けられている案内ポップを眺めていた。

「さっきから何見てるの。勉強熱心だね」
「はい。僕は勉強熱心のお利口さんです。ねえ杉浦さん。バイブ。バイブってさ」
「三回戦はしんどいからそういうの使うのもいいね」
「イイネ!じゃないですよそんな話してるんじゃないです」
「違うの?君の事だからてっきり」
「さすがの僕も今の今から三回戦は辛いのでもう少し休憩欲しいです。じゃなくてー。バイブ!震えますよね」
「だからバイブレーションなんでしょ」
「そうです。ケータイのマナーモード、あれをバイブって言う時実は僕、結構恥ずかしいです」
「またまた」
「恥ずかしいけど恥ずかしいと思ってると思われるのが恥ずかしいから普通にしてるだけです。でも女性は意外と平気な顔してバイブを連呼しますよね」
「あー。確かに。そうだねえ」
「あと女性は嫌な顔どころか嬉しそうに『ぶっかけ』って注文しますよね」
「え?」
「ああすみません、言葉が足りませんでした。うどん屋。流行ってるでしょ、ぶっかけうどん。ホントね、あんな恥ずかしいネーミング、僕は許せません。下品だ!」
「あ、ああ……うん、そうだねえ。女性はそういう言葉がそういう風にも使われるって知らないだけじゃないかな」
「今やぶっかけは国際的な言葉ですよ?英語圏でも『Bukkake』で通用するのに」
「まあ外国でも男しか知らないと思うけどなあ」
「話が逸れましたが、バイブですよバイブ。僕、いい事思いつきました。メーカーに提案したいです」
「何を?」
「ケータイスマホにバイブ機能が付いてるなら、逆転の発想です!バイブに通信通話機能を付けたらどうですかね!?」
「……寝ようか、菅野くん。いや菅野マネ。今日も熱い叱咤激励お疲れ様でした。明日は昼までに秋田に戻らないと」
「ちょっと、真面目に聞いて下さいって!いいですか、こう言う意外な所にあるんですよ商品開発のヒントって!」
「嫌だよ、そんなもの人前で使いたくないよ」
「誰が人前で使うって言いましたか。露出狂ですか杉浦さんは。あのね杉浦さん、一人で使うんですよ。バイブね、彼氏が彼女に贈る訳です」
「変態だね」
「話の腰を折らないで下さい。でね、彼女が使うとね、それが彼氏のスマホに通知される。子供用ケータイのアレとおんなじシステムを流用する訳です」
「……」
「でね、そうだ、サーモスタットも付けよう!でね、熱感知でね、やっぱりほら、気持ち良いと熱が高くなりますよね。それも通知されます。彼氏は離れてても彼女が自分を思って色々してると知って大興奮です!そして勿論彼氏にはオナホに通信機能を……」
「かんちゃん、1時過ぎたよ。寝ようよ。僕眠いよ」
「定型文のメールなら送受信出来るようにするんですよ。気持ちいいとかそろそろイきそうとかなんかそういうの。でね、GPS搭載ですからね、浮気は出来ません!外部で使うと記録に残ります」
「……それ置いて浮気しに行けばいいだけじゃ……それにほら、そういうプレイもありそうだし」
「敢えて外でさせるんですね!ふむ、杉浦さんの変態的なご意見はごもっともです。参考になります」
「いいから寝ようよ。ホントに僕眠いよ」
「勿論契約者も利用者も未成年ではダメですよ、売りません!でも大人だって恥ずかしい!だから契約自体は窓口ではSIMしか発行しません」
「……」
欠伸が出た。

「端末本体は……まあバイブとオナホですけど、それはコンビニ受取可能な感じでね、基本的には後送りです。うん、コンビニ提携とか流通の方も嬉しくなる妙案じゃないです?初期ロットの発売時にはオシャレなゴムも付けましょう。二台同時購入ならローションプレゼント!あっ、組み合わせは自由です。バイブとバイブでも、オナホとオナホでも構いません。セクシャルマイノリティにも優しいエルデータ!これは話題になる!さすが世界に視線を向けたエルデータです!おお、おお…これは売れる!!売れますよ!ねえ。杉浦さん。杉浦さんてば、ちょっと!眠らないで!話聞いて!僕なんか頭が冴えて来ました!マジで開発に言ってみようかな、よし、忘れない内に」

そう言って菅野はバタフライに手を伸ばし、メモを取り始めたようだったが、杉浦は迫り来る睡魔の誘惑に負けて、穏やかな闇の中に沈んでいった。

翌朝、菅野が憂鬱そうに自分のバタフライを見つめながら小さな声で呟いた。

「夜中のテンションてマジ使えねーな」

杉浦も苦笑するしか無かった。


20121121 完結
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