素直で嘘つき、僕の恋人


今年も遂に雪の予報が出た。

テレビの週間天気予報に雪だるまのマーク。

週末から雪の予報。

「まあ影響無いでしょ。初雪ったってパラパラ白いのがちょっと落ちてくるだけで」

菅野が能天気にそう笑っていたのが火曜の夜。
杉浦の腕の中で猫の子供の様に身を摺り寄せていた。
照明を落とした部屋。
暖かいベッドの上で二人。
大きな液晶のテレビを見ながら。

空模様については菅野の予報は外れた。

ただそれは雪と言うよりも霙。
雷を伴って空から降り注いだ。

営業所の入るビル内ではわからなかった。
市内の店舗を周ろうと外に出て、酷い天候にやっと気が付く。
ビルの一階、献血施設がある側の風除室出入り口付近で二人で足を止めて外の様子を伺う。

「菅野さん」
「なんですか杉浦さん」
「菅野さん仰ってましたね。初雪なんか影響無いって」
「言いましたけど。ねえ杉浦さん、その菅野さんての止めて貰えませんか。なんか嫌だそれ。杉浦さんに菅野さん呼ばわりされて良かった思い出一個も無いんですけど」
「かんちゃんの嘘つき」
「え?なんです?何が?」
「こんな荒れ模様じゃさすがに影響あるでしょ」
「あー。でもほら、秋田じゃ雨の日の方が店は混むでしょ?他に行く所無いし、暇つぶしに家電見に来るでしょ」
「今日混むのは家電量販店じゃないよ。どう考えてもガソリンスタンドだよ」
「あー。まあ、確かに」

タイヤ交換の駆け込み需要。

自力で冬タイヤへの交換が出来ない或いはしたくない人々が慌てて金を支払いタイヤを付け替えて貰う。

菅野が杉浦を見上げてニヤニヤと笑う。

「タイヤ交換さえ終わったら、どこのご家族もカップルも独り身も、行くとこ無いから量販店で遊びますよ。大丈夫。客足に影響ありません。同じ理由で雨の日の方が集客多いくらいなんだから」
「そうは言ってもねえ。今日はダメじゃない?明日なら混むかもしれないけど」
「それは明日が終わってからのお楽しみです。あーあ。今年も数える程しかバイク乗れなかったなー。誰かさんのおかげで忙しくてですけど」
「誰なんだろうねえ菅野さんを困らせてるの。悪い奴だ。僕やっつけに行ってあげようか。叱ってきてあげます」
「ふふ、いいです。僕が直々に懲らしめてやりますから」

それを聞いて杉浦は片方の眉を顰めて苦笑いを浮かべた。

「この前は火曜の夜だったよね」
「ええそうですよ」
「最近またスパンが短くなってる様な気がするよ」
「そうです?盛ってた時はエブリデイだったじゃないですか」
「君が仙台いた頃は月一って事も多かったよ」
「何言ってんですー」

菅野が例のアヒル口をして杉浦を見上げる。

「月一が嫌だから僕を呼び戻したんでしょ杉浦さん」
「違うよ。ちょっとだけ違うよ」
「何が違うんですー」
「フィジカルな事じゃなくてさ」
「メンタルな事?」
「そう。ただ君が傍にいてくれる方が僕は嬉しいからさ」

杉浦がそう答えると、菅野はニヤニヤをニコニコに変えた。

「そう言ってくれる杉浦さん、僕は大好きです」
「そうかい?何度でも言うけどさ、こんな事で良ければ」
「はい。僕それ何度でも聞きたいです。でもそんな嬉しい事たくさん聞かされたら興奮してきちゃいますよねー」
「寒いしね。仕方ない、暖かい所行こうか」
「ね。あったかい風呂入ってからですよねー店舗廻り」

二人で笑いあう。

丁度相談が終わったその時、背後の自動ドアが開いた。

七瀬だった。

「なんだよまだいたの」
「七瀬くんどこ行くの」

杉浦が尋ねると、七瀬は丸顔の頬を更に膨らませた。

「原田まで。フロアマネから呼び出しくらった」
「佐上さんですね。よろしくお伝え下さい」
菅野が社交辞令の伝言を託すと七瀬は心底嫌そうに口を歪ませた。

「あ、七瀬くん社用車使うかい」
「いーの?使う使う」
「僕ら市内廻るだけだからさ。僕の車で行くよ」
「おー、助かるわ。じゃ。戻り何時かわかんねーけど」
「はい、お疲れ様です。いってらっしゃい」

杉浦と菅野は小走りにビルから飛び出した七瀬を見送る。

また顔を見合わせて笑いあった。

「今日は近場でいいんじゃないですかね」
「そうだね。じゃあ山王」
「えっ、杉浦さん本気ですか?攻めますねえ。近場過ぎません?」
「大丈夫だよ。近場の方がいいんだよこう言うのは」
「灯台元暗し的な?」
「そう、それ」

勇気を出して外側の自動ドアから出る。

鉛色の空。
強めの風。

水分を多く含んでいた筈のそれは、柔らかな粉雪に変化していた。


20121119 完結
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