禁断の遊び


「ウォッシュエアシートってゆーのは人類史上最高の発明ですよねー!」

一糸纏わぬ姿でトイレから出てきた菅野を杉浦は欠伸をしながら涙目で見つめる。

「まあね、正直言うとビデ?あっちの方がちょうどいい時もあったりなかったり……裏側に中るとなんかいい!」
「なに言ってんの菅野くん」

ベッドに滑り込みながら独り言のような、杉浦に聞かせるような、訳のわからない言葉を菅野はずっと喋り続ける。

「前のアパートの時は温水洗浄機なんて文明品ついて無かったんでー。今のマンション、なにがいいってトイレです。温水最高!」
「ふーん」
「なんです反応薄いなあ。僕のお尻がいつも清潔でいられるのはあの文明の利器のおかげなんですよ、杉浦さんはもっとINAXに感謝すべきだ!あれ?TOTOかな?」
「うんうん、わかった、わかったよ」

流し聞きつつ、菅野の裸体にブランケットを掛ける。

「お腹冷えちゃうよかんちゃん」
「大丈夫です、僕って体丈夫なんですよねー!」
「……節電って、なんだろうねぇ」

エアコンの冷気が部屋中に染み渡るラブホテルの一室。

菅野は杉浦の腕に抱きつきながら笑う。

「節電てのはですよ、出来る人がやってくれたら良い物です。僕だってする時はします。PCはこまめに落としてますし。でもこんな、汗かいた後ならさ、暑いんだもん、エアコンちょっとくらい温度下げても」
そう言いながら、菅野も欠伸をする。

「ちょっと寝てから行こうよ」
「ですね。滝口なら一時間くらい遅刻したってなんてこと」
もう一度欠伸。
杉浦は菅野の柔らかな頭髪を空いている手で撫でた。

「いいからおやすみなさい。喋り過ぎなんだよ君」
セックスする時はてんで静かで。
喘ぐ声さえ押し殺して。
切なそうに、耐えて。

ただ、かんちゃん、君の場合はそれがいいんだよね。

「僕も寝る。アラーム一時間後にセットしとくからね」
「うーい……」

しかし杉浦は、バタフライのアラームが鳴り響く前に目を覚ました。

腹痛。

エアコン効きすぎなんだよ。
小声で呟く。

自分も菅野も裸のままで、疲れきって眠ってしまった。
きっとそれが原因。

微かな寝息を立てている菅野を起こさぬよう細心の注意をはかりながら、杉浦はベッドから抜け出した。

一応、枕元に打ち捨てておいたバスタオルを掴んで下半身に巻きつけた。
トイレへ向かう。

今度は菅野が目を覚ました。

杉浦の絶叫が聞こえてきたからだ。

「かんちゃん!菅野くん!ちょっと!!」

トイレから杉浦が駆け出てくる。
菅野は半眼でいつものニヤニヤスマイルを杉浦に見せる。

「どうしましたー?」
「あのね菅野くん、君ね!酷いよ!冗談が年々エスカレートしてるよ!」
「うひひ」

焦る必死の形相の杉浦が面白くて、また菅野はニヤニヤしてしまう。

杉浦が尻を押さえている。

「あんなね!トイレのね!!洗浄機ね!水流最強にしとくなんてね!君本当にいたずらが過ぎるよ!?」

それを聞いて菅野は耐えきれず、ブランケットに潜って肩を、体中を震わせて引き笑いをした。

「ひー…ひーっ、直撃したんだ、直撃ぃ…ひー!」
「ひーじゃないよかんちゃん!」

杉浦はブランケットを菅野から剥いだ。
中には丸くなった菅野。

「ひー…あー面白い。杉浦さん痔主じゃないんでしょ、そんな怒る程の激痛じゃなかったでしょ、ひひ、ひー…」
「びっくりしたんだよ!なんなのあれ、あんな水流要らないよ!メーカー頭おかしいんじゃないの!?」
「まあまあ、杉浦さん落ち着いて」

引き笑いを止めて、通常のニヤニヤスマイルに戻した菅野が慰めるように杉浦に言う。

「杉浦さんのも綺麗だと、僕がぺろぺろしやすいからいいんですよー!やっぱり文明凄い!科学に感謝!ね、杉浦さん。と言う訳で2ラウンド目開始です!延長料金は僕のお支払いぃ!」

横になっていた菅野が杉浦の腕を引き込みベッドに押し倒す。

顔中にキスの嵐。

杉浦の怒りに似た焦りも収束してきた。

滝口店で待機する宮川の顔が一瞬だけ脳裏に浮かんだが、結局杉浦は、目の前にいる悪戯好きの小動物の愛撫を楽しむ事に決めた。


20120821  完結

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