菅野くんが、足りない。

自覚してしまったらもうその先は止まらなかった。
生きていても仕方ない。
菅野くんがいないんだから。
生きていても何も面白くは、無い。

次第に表情が正直になっていた。
面白くない、楽しくない。
笑顔が、作れなくなった。

その日は、意を決して早退した。
菅野くんに言われた通り、生まれて初めて、心療内科の開業医を訪れた。

診察の前に簡単なアンケートを書かされた。
『最近気になる悩みはありますか?』
と言う質問には二重丸をつけてやった。

医者と対面し、自分の中の空白部分が埋められない事を、菅野くんとの関係は話さずに聞いてもらった。

「軽い鬱状態ですね。お仕事にも影響があるでしょうから、考慮してお薬を出しておきますね」

あっさりした会見だった。
事実、薬局で出された処方箋は実によく効いて、床に入るとすぐに眠れるようになった。
だが、空白感は安定剤として出された物は効果が無かった。

空白感の原因は判っている。

菅野くんだ。
菅野くんと、一緒にいたい。
仕事以外でも、心を通わせたい。

それを今日、伝えた。
泣きそうになった。
菅野くんは別れた時と同じようにあっさりと
「いいですよ。それで杉浦さんの体調がよくなるなら、僕はいつでも。僕は、杉浦さんを拒まないです」
「そんな簡単に…」
「簡単明快。わかりやすい。だって僕は杉浦さんが好きだから。杉浦さんに空白があるとしたら、それは僕なんです。やっと認めてくれましたね」
「うん、うん、僕も。僕もだ」
「大丈夫です。僕がついてます。だから仕事だって前みたいにやりたくなるから」
「うん。うん…かんちゃん…」

心が不安定過ぎて揺れる。
自分がブレる。
だが、繋いだ手から菅野くんの温もりを感じて、気持ちが落ち着いてきた。
「別れるなんて言って、終わりにしようなんて言ってごめん」
「仕方ないですよ。人間なんです、いろんなこと考えちゃいますから」
「かんちゃん」
「お帰りなさい、杉浦さん。ありがとう」

何がありがとうなんだろう。
こんな僕でもいいんだろうか。
今日からは、毎日夢に出てきた泣いている菅野くんの姿を見ないで済むだろうか。

もう一度引き寄せて、抱きしめた。



20100528完


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