ブラインドから夕日の光がが零れる営業所内の一室で、菅野くんを抱きしめた。
菅野の体を引き寄せて抱きしめた。
菅野の、ちいさく細い体をスーツの上から確認した。

ああ、やっぱり僕には菅野くんが必要だ。
必要だったのに、何故僕は菅野くんを拒んでしまったんだろう。
バカだ。
僕はバカだ。
何故、この華奢でしなやかな体を一度は手放したりしたんだろう。

「苦しいですよ、杉浦さん」
「ああ、ごめん」
離れる。

菅野は嬉しそうに微笑んでいる。
いつもの…いつもではない。最近はずっと見ていなかった、あの、ニヤニヤとした笑顔だ。

「だからね、言ったでしょう。罪は半分こしましょうって。好きなんだから、仕方ないって。周りは関係ないって点杉浦さんはきっと僕の所に戻ってくるって信じてたから」

ニヤニヤと、勝ち誇ったように。
僕はひたすらに、泣きそうになるのを我慢した。
認める。
僕には菅野くんが必要だ。

別れて以来、杉浦は不眠に悩まされていた。
遅い時間になっても目は冴え渡るばかりで、脳が休まらない。
食欲も減退し、少し頬がこけた。
仕事に対する意欲も正直失いかけた。
生きてる事自体が不思議な物となりかけた。


ある日菅野くんに声をかけられた。

「顔色、悪いですよ」
自覚してはいたが、菅野くんが下から覗き込むように見上げてくるから恥ずかしくて目を伏せた。

「あの、杉浦さん。言いたくないんですけど、忠告します」
「なんだい」
「病院行った方がいいですよ」
「どうして?眠れないだけなんだよ。大丈夫だよ」
「みるみるやつれて、それでなんでもない訳無いでしょ」
「心配しなくていいって」
菅野くんを手で追い払うしぐさをする。

その手を掴まれた。

「鬱の症状に似てませんか」
「鬱ぅ?どこが?僕は元気だよ」
「元気じゃないですよ。不眠なんて前兆もいいところだ。早く。お願いですから早く病院へ。内科でも不眠の薬は貰えますから」
「大丈夫だってば」
「大丈夫じゃないです。お願いします。今からでも病院、行ってください。出来れば心療内科とか、カウンセリングを」

背中を押される。

仕事はもちろん残っていたが、やる気は無かった。
どうせはかどらないならサボる気で病院に行ってみようかと考えた。

本当は、自分でもおかしいと思っていた。
菅野くんの背中を見ただけで悲しくなったり。
菅野くんの声が聞こえると苦しくなったり。

ただ、恋愛のようなそうではないような、不思議な感覚は、自分でも鬱状態ではないのかと。
ぼんやりとそう思っていた。

何故仕事をしなくてはいけないのかと投げやりになっていた。
生きていく為?
生きて、楽しいか?
楽しいさ。
嘘だ。
何かが足りない癖に。




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