愛しているとは決して言葉では伝えた事は無かったと思う。
杉浦は繋いだ菅野の右手を握り締める。

思えば、妻にさえそんな甘い言葉は言った事は無い筈だ。

若い頃、妻はその言葉を欲しがった物だが、今ではそんなそぶりさえ見せない。
夫婦で生活していくとはそういう物だろうと杉浦は思っているが、多くの女性がそんな台詞を待ち侘びている事も知っていた。

では菅野はどうなのだろう。

菅野は、男性で、自分と同じ性別で。
かつ、自分よりはよっぽどさっぱりとした男らしい性格、いや性質の持ち主だと感じている。

そんな菅野を抱く自分。

菅野は、愛しているとか、そんな風な言葉を待っているだろうか。

試しに言って見ようかとも思ったのだが、一笑されて終わるか、或いは額に手を充てられて、熱でもあるのかと尋ねられるんがオチだと考えた。

横で寝そべる菅野がイヒヒと妙な笑い方をした。

「百面相してますよ杉浦さん」

恥ずかしくなってしまった。

お互いにスーツを着たままでベッドの上に横になっている。
できるだけ皺をつけたくない。

日々の残業で、こんな風にデートホテルに二人で訪れるのも三週間ぶりだ。
だが何もする気が起きずに、ただ二人で、上着も脱がずに ベッド上に倒れ込んだ。

天井を見つめて、何も喋らずに。
そんな日もあっていいだろう。

会話が無い代わりに、杉浦の脳内では愛しているを声にすべきかそうではないか、等と言う自問自答が行われていたのだった。

愛とはなんなのだろう。

答えの出ない哲学的な問い。
愛とはなんなのだろう。

菅野に対する感情は、なんなのだろう。
本当にそれは愛だろうか。
恋だろうか。
性欲だろうか。

考えれば考える程に理解出来なくなる。
何故、菅野に惹かれるのか、と。

離れたくない、一瞬たりとも見逃したくはない、菅野を。
菅野を見つめていたい。ずっと、ずっと。

その感情の真意はなんだ。
なんなのだろう。

不意に菅野が上半身を起こして、徐に杉浦に口づけた。

「難しい顔ばっかして。原田店のクレーマーの事だったらとりあえず現場に任せたらいいんですって」
「あ、ああ、うん。そうだね」
「そうですよ」

囁きながら微笑む。

そうだ。
難しい事は不要なのだ。
何が愛だ。
気恥ずかしい。

自分は今、この一瞬を過ごせば良いのだ。
たゆたう様に。


20100418完


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