いつかメールが届かなくなった。
電話も、通じなくなった。
もうミナトがどうしているか、俺にはわからなくなってしまった。
そうしている内に、派遣会社でプロバイダ契約業務の仕事を見つけた。
デリの運転手は辞めた。
派遣会社から連絡が来た。
「プロバイダの方は別の人が決まってしまってですね、申し訳ありませんが、エルデータの携帯電話を販売する方に回っていただけませんか」
そうして俺は偶然にミナトがやっていた仕事に就く事になった。
派遣会社の人が、エルデータの担当と面談するから髪を切って来いと言うから、思いっきり前髪を短くした。
後ろも切って、二年近く伸ばしていた髪をすっきりさせたら、なんだか気分が良くなった。
ミナトの代わり、と言うわけではないけれど、ミナトがしていた仕事を自分が受け継ぐような気持ちでいた。
エルデータの担当者とは、エルデータ秋田支店内で初めて会った。
背が物凄く高い、お坊ちゃん風の、スーツの似合う男性だった。
杉浦、と名乗った。
ミナトの上司はそんな名前じゃなかったはずだな、と思いながら面談した。
突然杉浦が言った言葉に俺は吹き出してしまった。
「菅野ヒデキさんとおっしゃるんですよね。関係ないけど、私はヒロキです」
ヒロキ。
ヒロキだってよ、ミナト。
ミナトと同じ名前じゃないか。
つくづく俺は、ヒロキって名前に縁があるらしいな。
ああ、派遣だけれどやっとまともな仕事に就ける。
デリの運転手よりはマシだ。
上司はヒロキだし。
ミナト。
やり残した事がたくさんあったんだろうミナト。
昼の仕事、大変だけど楽しいって、あれは、あれだけは本心だったよな。
自分の気持ちを隠すことが上手すぎたミナト。
ミナト。
俺はおまえのやり残してしまったエルデータの仕事を勝手に受け継がせて貰う。
おまえが憧れた「昼の仕事」で、俺は必ず成功してみせる。
そうしたらいつか。
いつかまた、おまえと連絡取り合えるんじゃないかと思えて。
20100301完