劇団フェロウズの公演を終えて、伊藤と大森は実家のある北海道へ帰省した。

「連休はヤバかったな」
「本当になー。バカだな、俺ら」
「どう考えてもバカだな」

久々に里帰りしたついでに函館に寄ってみた。
仲良し。
仲良しついでに観光。
昼の内に五稜郭タワーにも上って土方歳三と記念撮影。
函館山まで市電を使うかタクシー使うかでちょっと口論。
そんなのも楽しい観光、楽しい旅。
伊藤意見が可決されて市電利用。
坂を上って夕方のハリストス正教会。
中は見ないでおいた。
時間が無かったから。
そろそろ夜になる。
夜景を見なければ。
また少し坂を上って、ロープウェーまで。
で、人混み。
混み混みの混み。
大混雑。

「連休は人混みだな…」

伊藤が呟いて、大森が頷く。
曜日の感覚が無い二人にとって、今日が日曜に続く祝日と言うのを忘れていた。
日祝に仕事が無いというのも、劇団員とは言え俳優としては考え物だが。

チケットを買って、列に並ぶ。
実際にロープウェーに乗れたのは15分後。
並んでいるだけでもう疲れる。

「山頂って寒かったよな」
「風が強いって思い出あるけど。結構昔の話だしなぁ。寒くはねぇんじゃね?こんだけ人がいるんだぜ」

伊藤がそう言うと、大森が感心したように伊藤を見た。
お前、頭いーね、の顔。
ロープウェーの真ん中に立ってしまったから、夜景が見えない。
お楽しみは、これから。

ロープウェーから降りても、中の山頂施設に入ってもまだ人混み。
混み混み。
なかなか前に進めない。
修学旅行生が、帰りのロープウェーに乗ろうとずっと並んでいる。
日本人と変わらない顔をした外国人の団体が大声で会話している。

「さすが観光地」

大森が言った。
地元の札幌も観光地だけどな、と伊藤は思った。

階段を少しづつ、ゆっくりと上っていって、やっと夜景の見える屋外に出る。
人ばかりだ。
夜景どころではない。
人の頭しか見えない。
やはり、風が冷たい。
強くて寒い。

大森が小さく震える。それを見て伊藤が大丈夫?と言う顔で見る。
大森は笑った。
笑った鼻から水が出た。
伊藤がウンザリした顔をする。

「寒くないよ。ちょっと鼻水出ただけ」
「無理すっからだよ」
「無理してねぇよ」
「夜景見れてる?」
「スキマからチョイチョイっと。お前見れてる?」
「まぁまぁ。もうちょっと前まで行こうぜ」
「それよりもひとつ上行こうよ」

大森が、もう一階上のフロアを指す。
下から見ても、そこも人混みだ。
どうせなら高い方、か。
階段を上る。
先を歩いていた伊藤のジャケットの裾を大森が引っ張る。

「危ねぇよ。なんだよ」
「ちょっと伊藤。こっから見んのがいいよ」

伊藤が振り向くと、目の覚めるような輝かしい夜景。

「階段中腹がベスト」
「ベストだなぁ」

階段は歩幅が狭く急だが、壁側に寄って夜景を望んでみた。
寒さを忘れてしまうほどの絶景。
こんなに綺麗なものだったかなと二人は思う。
そうか、天気がいいからだ。
函館市内もライトが増えてるのだ。
年々美しくなるこの夜景。
東京の夜景はどうだったかな、と思う。

上の段から伊藤が見ている。
一段下で大森が見ている。

「写真は?」

大森が伊藤を見ないで言う。

「面倒だからいいよ」

伊藤が答える。
その後は特に会話も無く。
10分弱ほど夜景と人混みを眺めて、またロープウエーに乗る為に列に並びに行く。
人人人人人。
いつもの劇場よりも人が入ってるな、と思って大森が一人でニヤニヤする。
伊藤は何を笑ってるんだという顔をする。

『よんれつにならんでまえにおすすみくださーいたいへんこみあっておりまーす』

そんな声が前から聞こえてくる。
人がスシ詰めで、空気が悪い。
少し前にすすんで、柱の横に来た。
大森は柱に身体を傾けた。
伊藤が、その大森の背中から腕を伸ばし、柱に手をつく。
大森がまたニヤニヤする。
カップルみたいで笑ってしまう。
伊藤は遠く前の方を見ている。

「どうでもいいけど、顔さされねーな」
「札幌じゃ有名人なのにな」

帰りのロープウェーに乗れたのは、20分後だった。


20100217加筆修正、完

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