直線なのに、ガードレールが湾曲している。
事故の形跡。
ガードレール自体が割れて大きく破損している訳ではないから、大事故ではない、筈。

そこに腰をかけて、安田は胸元から煙草を取り出す。
向かい合って立っている鉄也も同じく、煙草を取り出す。
ジッポも取り出す。
点火して、先に安田に差し出す。
安田が煙草に火をつける。

赤い灯火。
白紫の煙。

次に鉄也は自分の煙草に火をつけた。
ガードレールの向こうは崖。
波の音。
夕日は山の方へ。
暗くなってきている。

「そっから先は死んでまうなぁ」

鉄也が遠くを見ながら言う。
安田と視線を合わせない。

「そやな。死んでまうやろな」

同じように安田も鉄也と視線を合わせない。
足元のアスファルトを見つめている。

「煙草吸うんもえらいしんどなってきたな」
「どこでも吸われへんからな」
「ヤス、カンカラある?」
「カンカラて。無いよ」
「コーヒーでも買うてきた良かったな」
「なにゆうてん。俺あんで、煙草ケース」
「煙草ケースちゃうやろ、携帯灰皿ちゃうの」
「それそれ。あんで」
「ジブンそんなん持ってんの。オカマちゃう」
「持たなあかんで」
「持っとるけど忘れてきたんじゃ」
「ほぉか」

安田はジーンズの後ろのポケットから携帯灰皿を取り出す。
顔も見ずに鉄也に差し出す。
鉄也も、顔も見ないで受け取る。

二人同時に、すぅ、と煙草を吸う。
思い切り肺に溜め込んで、吐く。
茶色がかった白い煙。

「二酸化炭素」
「二酸化炭素混じって、そな色なるんやったっけ」
「なんやそな感じちゃう」
「ほな煙草て何。なんの煙。なんの気体」
「なんやろなー。毒やんな」
「毒やなぁ」

そう言った鉄也が先に煙草を吸い終わる。
灰皿で消す。
灰皿を安田に渡す。
安田が受け取る。
安田も、煙草を消す。

安田が曲がったガードレールを擦る。

「よぉこんなんで助かったな」

鉄也が不思議そうに、やっと安田を見る。

「助かったて?ガードレールが?」
「ガードレールも、車も」
「車の方はわからんやん。死んどるかも」
「それはないやろ。これしか曲がっとらんし」
「わからんで。打ち所悪かったらどやねん」
「どやねんゆわれても。まぁガードレール無事で良かったんちゃう」
「ぐちゃぐちゃの方がオモロいやろ」
「そんなん怖ぁて座られへん。あ、ジブン、このガードレール怖いんちゃう。ビビリやのー」
「ガードレールが怖いんちゃう。向こう側が怖いんじゃ」

鉄也はそう言うと、また海の向こう側を見た。
安田も振り返って、海を見た。
見つめた。


20100203加筆修正、完

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