とりあえずビールと枝豆。
生中2つ早めによろしく。

相方はベロベロになっている。
酒飲めないのは相変わらず、で、きっと体中に湿疹出てる。
真っ赤なブツブツ。
矢田さんはアルコールに好かれてない。
都内の華やかな居酒屋で、別団体で別行動してたのに鉢合わせ。
で、合流したら、最後に二人になってしまった。
なんか変な感じ。
既に相方は出来上がってしまってたが、「まだ行こ!もいっちょ行こ!行けますわまだまだー」と張り切るので、仕方ないから付き合うことに。
俺も店なんかよう知らんから、適当に、静かそうな(と言うよりも場末の)スナックみたいなとこに入ってみた。
 
で、とりあえずビールと枝豆。
生中2つ早めによろしく。

カウンターではなく、奥の方の照明の暗いボックスに向かい合って座る。
二人とも帽子と眼鏡をかけているから、多分大丈夫。
芸人だなんてバレそうにない。
相方はもう眠りかけている。

どうやって帰そう。
多分このままでは帰らない。
矢田はこういう感じ。
いつもこういう感じ。
 
「尾崎さん。尾崎さん」

小さな声で矢田さんが呼ぶ。
無視する。

「尾崎さんて」

無視。とりあえず無視。

俺らの他にはカウンターに1人の中年男性。
他のボックスに3人。
カウンターにいるのがママさんか?
中ジョッキに生ビールを注いで持ってきた。
ボックスにいるのは余り若いとも言えない女がついている。
ボックスの客一人がカラオケをやり出した。

矢田がまた「尾崎さん」と呼ぶ。

今度は返事をする。

「なんやねん。飲めへん酒飲まんといてくださいよ」
「飲んでませんーボク飲んでませんてー」

典型的な酔っ払いだ。

「矢田さん、飲まへんねやったらもう帰るで」
「帰らへーん」
「ほな飲もか」
「飲めませーん」

会話にならない。
乾杯もしないで、俺はビールに口をつける。
実は俺ももうそんなに飲めそうに無い。
客が歌っているのは古い演歌だ。
盛り上がらない。
盛り上がらなくてもいい。
無理は禁物。
そんなことより、とりあえず、矢田をどうにかしなくては。

「尾崎さん」
「だからなんやねん」
「尾崎さんスキ」
「ああそう」
「尾崎さんスキやー」
「ありがとう」
「尾崎さんも言いやー」

面倒だ。
矢田はテーブルに顔を沈めて行く一方だ。
よだれまで出てる。
拭いてやるのも面倒だ。
矢田がちぇ、と舌を鳴らす。

「なんやねん。尾崎は。もぉ」
「それはこっちの台詞や。どないしてん矢田」
「だってなー。だって。まぁええけど」
「はっきり言えやぁ」

ウフフ、と矢田は妙な笑い方をした。

「尾崎さんこないだは酔うたよね」

もう半年も前の事だ。その日はどうしようもなく疲労していて、酒も進まなかったのに、今日の矢田の様にベロベロに酔ってしまった事があった。
記憶は無い。

「あん時いっしょけんめ矢田スキやぁスキやぁゆうてくれたのになぁ。なんやろー。今日はゆうてくれんなぁ」

俺はジョッキの中の半分くらいのビールを一気に飲み干して、カウンターに向かって叫んだ。

「ママさん一杯頂戴!」
 
 


とりあえず、二人はラブってことで。


20100203加筆修正、完

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