![](//static.nanos.jp/upload/m/mujiknh/mtr/0/0/20100131053509.jpg)
試合が終わった。
3-2でマドリードの勝利。
「ベッカムは温存かぁ」
そう言うと小原は後に手をついた。
依栖も同じ格好をする。
「そなもんちゃう。ロナウド調子良かったなぁ」
「ソシエダも強いですね」
「強い強い」
「…依栖さんも、ホンマは近距離が強いタイプでしょ?」
小原は上目遣いに依栖を見た。
「俺?俺元々拷問班やで。しばくん仕事やってんもん。まぁ殆ど蹴り上げとったけどな」
依栖が言うと、小原は笑った。
「趣味丸出しですねぇ」
「ええ仕事でも無いで。すぐに圭呼んで、オフェンスに回してもろたし」
「仕事は警察一本?」
「そぉや。ドグサレサツ殺んの専門やもん。ジブンらは?」
「僕らまだ仕事選べませんもん。ディフェンス班ですし」
「イヤやろ、しょーもない奴護んの」
「イヤな時ありますねぇ。美又はまだ悩んでますけど。俺はもう。慣れたかもしれへん」
依栖は小原を見つめた。
慣れた。
その言葉が依栖は嫌いだ。
この仕事に慣れがあってはいけない。
表も、裏も。
「オフェンスにも憧れるけど。俺も美又も接近戦あかんから無理ですわ。圭さんの拳と依栖さんの脚があったら無敵なんやろなぁ」
小原が遠くを見ながら呟く。
「…上はね、圭さん殺ったら依栖さんは連れて帰るようにゆうてるんです。どないします?」
「どないするもなんもない。答えはいっこしかない」
「そうですか」
小原は俯いた。
両膝に顔を埋める。
くぐもった声で依栖に言う。
「多分今頃美又は死んでる。圭さんに殺られてます。本望やと思う。俺ら、なんでここまで来てしもたんやろ」
依栖は何も言えなかった。
答えられない。
かけてやる言葉は無い。
「依栖さん」
小原が顔を上げた。
立ち上がる。
まとわりついた砂を払う。
依栖はそれを見上げた。
と同時に依栖の額に小原のワルサーの銃口が押し付けられた。
「死んでください」
依栖は目を閉じなかった。
来る。
今、来る。
「伏せぇ依栖!!」
その声に従った。
砂地に倒れこむ。
小原の銃口が声のした方向に向けられる。
だが小原の動きは間に合わなかった。
圭の放った弾丸が小原の胸を撃ち抜いた。
依栖の隣に小原が倒れた。
依栖は急いで立ち上がり、圭に向かって走り出した。
圭が腕を伸ばす。
依栖がその手を掴む。
叫ぶ男達の声。
女達の悲鳴。
銃弾の音に一斉に逃げ出した家族。
興味深そうに小原の死体に近づくカップル。
それらを背にして、二人は走った。
砂に足をとられそうになると、圭は依栖の腕を掴んでまた走り出す。
(走ってるんじゃない、止まれないんだ)
昔、二人で観た映画のキャッチコピーが依栖の脳裏に浮かんだ。
走ってるんじゃない。止まれないんだ。
アンダルシアの日差しは痛い。
痛い。
「圭、俺、痛い」
「痛いな。ホンマ、痛いわ」
一際高く聳え立つカテドラルを目指す。
太陽さえ、味方ではない。
20100202加筆修正、完結
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