![](//static.nanos.jp/upload/m/mujiknh/mtr/0/0/20100209073746.jpg)
餃子ってこんなに美味しい物だったか。
春巻きも、美味い。
これは小籠包って奴か。
凄いなー。
「今日も凄いな花くん」
感嘆。
芝は梶花に感心する。
母親の作る料理より、美味いと感じる。プロ並の料理だ。餃子が特に美味い。
小粒だがューシーで、味わい深い。
芝は思わず携帯電話を取り出し、それらを写真に収めた。
「何してんだよ芝」
冷えたビールの缶を二本手にして、梶花がキッチンから出て来た。
きちんとエプロンをして。
「寮母さん」の名に相応しい姿。或いはコスプレ?
芝は感心した顔のままで梶花を眺める。
梶花は料理を頬張る井川と梁にビールを渡して、芝の右隣に座る。
「花くんの料理は絵の材料に凄くイイ。前のチーズフォンデュの会の時も参考になったし」
芝はアニメオタクで、趣味で漫画を描いている。
参考資料と称して梶花の料理を写真に撮る。
「今度はイタリアンの会やろうぜ」
井川が春巻きをかじりながら提案する。
すると梁が
「いいよね。パスタ茹でるくらいなら俺も手伝えるよ」
と同意する。
梶花はムッとして唇を突き出す。
その表情を見たくて、全員がわざと梶花を怒らせてるのにも気づかず。
「俺ばっかり作る係なの、嫌だよ。大人数だし」
梶花以外の三人は、それを拾って笑いながら答える。
「だって花くんしか料理出来ないし」
「そうそう。花の料理が食いたいもん、なぁ梁」
「うん。俺は料理してる花を見てるだけで楽しいよ」
おだてられ、梶花は黙り込む。
唇は突き出したままで、照れた様に。
この顔が好きなんだなぁ、と井川は思う。
エプロンが可愛いよなぁ、と梁は思う。
ネタになるシチュエーションだな、と芝は思う。
一瞬の沈黙。
「ちゃーっす!もう始まってます?始まってますよねぇ!?」
割って勝手に入室して来たのは、売り場一番の若手・尾藤ツグミ。
営業終了後そのまま自室にも戻らずやってきたのだろう。ネクタイのままで。
「うはー、美味そうな匂いするぅ!腹減ったぁ!」
一番年少ながら一番体格のいいツグミはその場にドッカリと座り、携帯電話を取り出して梶花の料理の写真を撮影した。
「お前まで何で撮るんだよ」
驚いた様に梶花が言う。
ツグミは不思議そうに、だが当たり前の様に答えた。
「リクシィにアップするんすよ?あれ?もしかして撮影禁止?」
SNS用の写真。
ツグミの日記を想像して芝は笑った。
どうせ内容は、
「先輩のギョーザ美味いっす!ヤバいっす!でも女子に会えないっす!ニンニクヤバいっす!でも止まらないっす!美味いっす!」
想像が伝染し、つられて井川と梁が笑った。
ツグミは何故笑われているのか理解出来ず、なんとなくヘラヘラして春巻きを摘む。
梶花は立ち上がり、ツグミに聞く。
「未成年は烏龍茶な」
「うぃっす、あざっす」
草食男子の集いは、別名「梶花を愛でる会」。
別名を命名したのは芝。
共同戦線。
抜け駆けはしないぞ、のサイン。
梶花は皆の「寮母さん」。
こうして梶花の作る料理を囲んで楽しむのが、一番梶花に優しい。
今夜も草食男子の集いは、一人の若い肉食男子を歯止めにして、何の事件も起こらないままで。
明日も全員出勤で、全員売り場配置なのも忘れて、餃子を頬張る午後10時。
20090527完
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