ふと思い付いた、とでも言うように、菅野が杉浦に声を掛ける。

「どんなシチュエーションが、好きなんですか」

車内。

運転は杉浦。
後輩の菅野はハンドルを持つと人格に難が生じるから、と言う理由で、先輩の杉浦が移動の際に余り運転させない。
「僕…の好きなシチュエーション?」

赤信号で停止する。
午前の仙台市内。

菅野は覗き込む様にして笑顔で杉浦の回答を待つが、言い淀む杉浦に堪え切れなくなる。
自分の意見を先に提出。

「僕は、好きって言うか、憧れって言うか、その内杉浦さんとって思うのが、外」
「外ぉ?」
「うん、外。外で、ね。杉浦さんを僕が襲う」
ニヤニヤと菅野は笑う。

青信号。発進。

暫く黙っていた杉浦が口を開く。

「呆れない?」
尋ねられ、菅野は大きな目を悪戯っぽく更に大きくした。
「呆れないです。聞かせて下さい。お好みのシチュエーションに挑戦したいな、僕。杉浦さんが喜ぶなら」
「それは…ちょっと…無理かなぁ」
「?」
杉浦は片手で小鼻を掻く。
照れた様に、恥ずかしそうに。

「僕さ、変なんだろうけど…かんちゃんとならさ…」
もうすぐ40歳になろうとしている男が恥ずかしそうに、ボソボソと語りはじめた内容は。

「外は外なんだけど…かんちゃんが数人の男達に襲われて、僕は殴る蹴るされて、縄とかで縛られて、かんちゃんが犯されるのを見ながら、みた…い…な」

呆れない約束を忘れる所だった。

うっかり菅野は口をポカンと開けたままになりそうな所を、意思の強さで噛み殺した。

だが、感想として口を衝いて出た言葉は。

「ド変態ですね杉浦さん」

思わず言ってしまった。
杉浦は何故かニコニコと笑い、
「うん、そうだね、僕はド変態なんだね」
ハンドルを左に切りながら。

「ドMなんだかドSなんだか微妙だけど、ド変態には違いないですよね」
「僕はMなんじゃないかな」
「でも僕が犯されるのが見たいんでしょ?Sっぽさもあるんじゃないですか」
「そうだねー。僕気持ち悪いね、変態だね」
「杉浦さんには悪いけど、それは実現させられませんね…いくら僕でも」
「想像してるだけだからなー」
アハハ、と軽く笑って流す杉浦の横顔を、菅野はやはり、呆れた様に見てしまった。

車は高速に入ろうと車線を変えた。



20090526完



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