浮気者なんかじゃない。
俺は浮気者なんかじゃあ、無いんだ。
そう言っても、何度も言っても、サクは信じない。
信じないならそれでも構わない。
たった一つの恋はサクだけなのだと。
俺は思っているから。
「だばって付き合ってらすべ」
「別に。マリが纏わりついてらだけだもん。俺さ関係ねー」
「俺には関係あるすもん。それに」
「それに?何や」
喫煙所でたまたまサクと居合わせて、こんな会話になってしまった。
こういう会話は、本当は嫌いだ。
「それに、岡田さん結婚してらすべしゃ」
「んだよ?結婚してらからって何や。サクが好きなのに何関係あるって」
そう言って、煙草を灰皿に投げ捨てた。
なんか本当にどうでも良くなってくる。
サクまで、しつこい。
マリもしつこいし、嫁もうるさいし、本当にどうでもよくなってくる。
俺は、好きな様に生きたいだけなのに。
その時好きな奴と一緒にいられたらいいだけなのに。
「それに岡田さん、子供もいたすべ」
「いたばって。何や」
「…子供がいたら、恋愛なんかしてる場合じゃねーすべしゃ」
「んだか?」
「んだすよ。それに隠岐くんとも」
「隠岐だって俺に纏わりついてくるだけだもん、何悪いって」
「…えっちしたすべ?」
「したよ?で?何なのやそれで」
「…したらダメだすべしゃ」
なんでだ?
何故その時好きな奴と、その時のノリでセックスしたらダメなんだ。
サクはしつこい。
サクにだって婚約者がいる。
なのに俺に抱かれる。
俺だけ追求されるのはおかしくないか?
「サク、早ぇぐ煙草吸ってしまえ。売り場さ出るぞ」
「わがってらす」
「今日なんぼ出すつもりでいだ?」
「わがらねす、今日は黒、暇で」
「暇でもサクは売るべしゃ」
「岡田くんにはかなわねーでゃ…トップの癖に」
「俺は売るがら。なんぼでも。白にいたってテレビ売るよ」
「んだすよな」
サクはもう、笑っていた。
さっきの痴話喧嘩もどきの会話の時とは違う。
笑っていた。
そうだ、サクは笑っていればいいんだ。
笑っていると、好きだ。
好きなんだ。
それだけで、何が悪い?
売り場の扉を開けると、今日も閑散とした店舗。
それでも俺は売るし、サクも売る。
仕事が楽しいのは。
仕事が楽しいのは、それは多分、俺が自由だからだ。
サクや嫁だけじゃない、女にも男にも、俺は自由だ。
自由に生きる。
20100115完