「若様、お元気でしたか」
「若様はないだろ、やめてくれよ菅野くん」

本当にそれは恥ずかしいから止してほしい。

祖父の代で終わった筈の開業内科医院。
それを今年、孫の自分が継いだ。

エル製薬の菅野とは、大学病院時代からの付き合いだ。

「杉浦医院は繁盛してるって、どこでもうわさですよ」

言いながら菅野はネクタイを緩めた。

杉浦の、ネクタイを。
そして白衣を脱がす。

杉浦は利き手で近づきすぎた菅野の顔を抑える。

「近づき過ぎだよ」
「枕営業の菅野なんで」
「そんな事誰が言ってるんだい」
「女の先生…例えば秋山先生だとか。それからオカマのレントゲン技師さんとか」
「竹中くんかい?」
「冗談ですよ冗談」

どこからが冗談なのだろうか。

菅野は杉浦から一歩後ろに離れた。

その姿を確認する。

小さな体、顔と大きな目。
自分とは真逆の。

杉浦は身長だけはすこぶる高い。
内科医にそこまで必要ではないだろうという程高い。
目は小さく細く、よく患者にからかわれる。

『杉浦先生、見えてる?』

見えている。
よく見えている。視力はいい。最近は遠いものの方がよく見えるのだが。

そして今もよく見えている。

菅野がスーツを脱ぎだしているのを、よく見ている。

診察室。
今日は診察は無い日だ。

なのに杉浦は、菅野の指示で白衣を着せられて、菅野の来訪を待たされていた。

立場がおかしい。

おかしいと思いながらも、菅野の体に抗えない。
菅野の肉体。
細く小さく、繊細なように見えて、力強い。

「お医者さんごっこですね」
「お医者さんだよ僕は」
「でも僕患者さんじゃないんで」
「で、どこを診察して欲しいんだい」

全裸になった菅野の背後から、抱きしめる。

「心を。杉浦先生に夢中すぎて、何も手につかないんです」
「僕は内科だけど、心療内科じゃあないんだよ」
「外科的療法での治療をお願いします」

婉曲的にセックスを、菅野はそう表現する。

外科的療法。

オペにかかる時間は2時間弱。

集中して、菅野を治療したいと思う。


20090106完


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