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「依栖、ガキに何さらしとんねん」

圭が諌める。
圭も依栖を追ってバイクを降りた

泣き出す男の子を二人見比べる。
顔が似ている。
兄弟だろうか。

「お前ら兄弟か?」

圭が子供らに尋ねると、二人は泣きながら頷いた。

「人造やからゆうて、女の子いじめたらあかんで」

そう言うと圭は二人の少年の頭を撫でた。

「兄弟は仲良うせなあかんな。でも女の子はいじめたあかん。この子は俺らの妹や」

脇にいる少女体エスを指す。

少女体エスは澱んだ瞳をしていた。
愛玩用に造られているエスタイプは、一年以上使用されると自然とこの瞳になる。
それが圭は切ない。
悲しい。
見たところこの少女体エスははぐれ人造だろう。
主人を失い、不特定の人間と関係を持って、そして流れていく。

「キャラメルやろ。もうこの子にかもたらあかんで」

圭は胸ポケットから数個のキャラメルを出して少年達に渡した。
少年達は笑顔になった。
さっき泣いたカラスが。
圭はひどく羨ましくなった。
人間の兄弟二人。
仲が良いのだろう。
それに比べて自分たちは人造の、偽者の兄弟だ。
だが負けない。負けない絆がある。

少年達は走り去って行った。
残されたのは少女体エスと圭と依栖。

「ほなやろか」

依栖が言うと、圭は振り向いて頷いた。

圭が依栖の耳のスロットからメモリーカードを取り出す。
依栖の筋肉が緩み、依栖は前のめりに失神する。
圭は転がった依栖を上向きにアスファルトの上に寝かせ、少女体エスに向き直った。
ひどく怯えた表情。

「心配せんでええよ」

耳元のスロットから少女のメモリーカードをゆっくりと抜いた。
力が抜ける。
片腕で少女を支えたままで、依栖から抜いたメモリーカードを今度は少女のスロットに差し込む。

 1

 2

 3秒。


「カインとアベル」


少女が起動パスワードを口にした。すかさず圭が解除パスワードを言う。


「この世の果てまで」

たったこれだけだ。ただこれだけで、失うはずだった物を生きながらえさせることができる。
少女体のエス、つまり中身は依栖のその瞳が圭の腕の中で圭を見上げた。

「これで何体目?」
「まだ十二体。普及してんのはまだあんで」

圭は少女体の耳のスロットからそっとメモリーカードを抜き取った。
またも失神するエスの耳に、元のメモリーカードを挿入すると、少女体エスは目覚めた。
もう瞳は澱んでいない。
だが疲れたような、痺れたような瞳だ。

エスの身体をアスファルトの上に座らせて、圭は依栖の身体に近寄った。
スロットに依栖のメモリーカードを差し込む。
3秒で覚醒する。
依栖は起き上がった。

「次行こか」

何事も無かったかのように依栖は言った。

「このはぐれエスはどないする?」
「近くにラボでもあればええねんけどな」
「この辺に『終わり』のアジトあんねかな」
「あるやろ。もう、残ってる人間は少ないねんから」
「そやな」
「ほな三ケツや。エス、乗れや」
依栖がエスの身体を持ってバイクに跨らせる。
最前列に圭が跨る。
一番後ろに、エスを守るようにして依栖が乗り込む。

真っ直ぐにのびるアスファルトをブリッテンが走り出した。

ハレルヤ!兄弟に幸あれ。





20100130加筆修正、完



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