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ハレルヤの声も遠くなる。
東京が遠くなる。

潮風が少し肌寒い。
依栖は漆黒のライダーズスーツの胸元を首まで締めた。
ブリッテンの運転をするのは圭。
依栖はバイクの後に座り、圭の腰に腕を回す。

「ほな行くか、依栖」

圭が言うと依栖は頷いた。
圭も同じく真っ黒の繋ぎのライダーズスーツを着用している。
ちらほらと桜の花弁が纏わり付く。

東京から離れ、宮城県に入った。
現在地は塩釜。

普及している少女体エスの起爆発動を解除する旅に出て2週間が経った。
桜前線を追いかけるように少しずつ北上している。

背中に依栖の体温を感じて、圭は少しだけ幸福を感じる。
圭は自らも人造になった。
兄弟。先に産まれた弟と、弟に造られた兄。
それでも二人は兄弟だ。
兄弟だと思っている限り、二人は兄弟だ。

スーツケースはもう不要だ。
東京を出る時、燃やしてきた。
依栖はエスの体を必要としない。
必要になった時が来るとしたら、それはこの世の果てに辿り着いた時だ。
起爆物の少女体は不要となった。
それを一体一体、パスワード解除していく旅。

圭が少女体エスを回収する。
依栖のメモリーカードを少女体に挿入する。
パスワードが生成され、少女の口からパスワードが発言され爆破予定が宣告される。

そこで圭が解除のパスワードを少女の耳に聞こえるように口にする。
それだけで、世界は破滅への速度を緩める。
全ての少女体のパスワード解除は難しいだろうが、それでもできる限りのことをしようと二人は思っている。
自分たちの妹が、兵器とならぬように。

まっすぐに伸びるアスファルトの道路をバイクで走る。
遠くで人影が見えた。
子供が三人。

「ちょお、圭、停めて」

依栖が圭の腹を叩いた。
子供達の数メートル前でバイクが急停車する。
二人の男の子と、一人の女の子。
女の子が男の子二人に殴られ、蹴られている。
その女の子は姿こそみすぼらしかったが、顔には見覚えがあった。
エスの普及体だ。
男の子達がキンキンと甲高い声で叫ぶ。

「汚い女!汚い人造!」

依栖はバイクから降りた。
つかつかと子供達に歩み寄る。
男の子二人の頭をドカドカとどついた。

「人造なめんなよ!」

殴られた子供達は自分の身に何が起きたのか一瞬わからなかったようだった。
一瞬時間が空いて、次にわんわんと泣き出した。



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