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近がゆっくりと倒れた依栖の左耳に触れる。
スロットからメモリーカードを取り出す。
ケイ二人は身動きが取れない。
その様子を見つめるだけだ。
近がスーツケースに手をつけた。
開く。
中には裸の少女。
近はその左耳に触れる。
スロットにメモリーカードを挿入する。






3秒。


少女が覚醒した。

「起動パスワードをゆえ」

「言うなエス!」

一瞬の静寂。

少女の甘い声。

 
「カインとアベル」


カチ、と秒針が動き始めた。

近が二人のケイを見て言った。

「起爆スイッチが入ったで!あと十分足らずでこのビルごと爆破や」
「こんなトコで終いにはせぇへん!」

圭は九十四式を近に向けた。

近は笑った。

「おう、おう、撃ってもええで!あとはお前ら二人が融合してパスワードを生成せえへんかったらエスは止まらへん!しやけどもうお前らのメモリーカードを抜き差しする奴はおらへん。俺もどうせ死ぬんや。撃ったらええ!」

そう叫んだかと思うと、突然近が泣き出した。頬を伝う涙。

「チカ兄…」
「お前を育てたったん俺やで、圭…お前とこんな形でお終いやなんてなぁ」
「そう思うんやったら、チカ兄、早よ、俺とKを融合さしてくれ。ほんでパスワードを」
「それはできへん。『はじまり』の指令や。もぉ後戻りできへん。『はじまり』は絶対や。人間の支配や。お前も元々人間やってんで。それが人造なんかに追われる立場にまでなってもうてんねんで。なんでか判るか。人間が少ななってきてんねん。もう東京にはD区とE区にしか人間はおらへん。あとは皆人造や。人間はもう自殺する道しか残っとらん。それを止めるのが『はじまり』の仕事や。このS区にももうすぐ『はじまり』のメンバーが来る。お前らの最後の始末や」

近がそう言った途端、外で爆発音が聞こえた。
空が赤く染まる。

「来たな。さぁ、どないする、圭」

ケイ達はうろたえた。もうどうすることもできない。

「人間と人造、ちゃんと一緒に生きていける道があるんちゃうんかチカ兄」
「そんなもんあんねかいな」
「ある。あるだろう、兄さん」
「あるかな。俺はあるて思とったけどな」 
「しやったら」
「人造は人形や。そう思てる人間は多い。しやからこななってもうた。もう人間も行くところはいっこしかのうなってもうた。自分から人造になりたいゆうたお前。圭。お前が証拠や」
「俺は、俺は依栖と一緒におりたかっただけや」
「永遠の命なんか欲しがるもんやないで」

一瞬の隙をついてKが近の腕を撃ち抜いた。
裸のエスを掴んでいたその腕が解かれる。

「エス、こっちに来い!」
「K、お前も最後を待っとんねんな」

近は撃たれた腕を片方の手で掴んで苦しげに倒れた。

「兄さんの最後はお前がやれ、圭」 
「できへん!もう人が死んでいくのはイヤや!」
「このままエスが起動したままでも、人は死ぬ。人も、人造も、全てのものが死んでいく。全てが爆破される」
「そやな。Kの言うとおりや。撃ってくれ圭」



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