拓也ちゃんが来ているのを、徹はわかってるんだ。
拓也ちゃんには可哀相だけど、勇志さんは気付かないよ。
代わりに拓也ちゃんの事を好きだって言ってた徹が気付いてくれたよ。

俺の耳に大きく響く神様の声。

残響が取れない。

ガンガンと響き渡るゴスペル。
雪の音。
妖精の羽。
拓也ちゃん。
光。
神様。
俺。

俺はそのまま目を閉じた。

気を失った俺を部屋に運んでくれたのは勇志さんで、俺の大学ノートを持ってきてくれたのは徹だったらしい。

翌日は、いつもより早く目が覚めた。 
昨日の音の波は消え失せていた。   
左の二の腕の外側が痛い。
よく見てみると、注射の跡がある。
俺は気がついた。
ああ、これはあの注射だな。
ゴリラもびっくり、爆睡注射。
俺は音の波に飲みこまれて窒息しそうになってたんだ。

だけどその割には今朝の目覚めは快調だったな。
今日、退院なんだな。

拓也ちゃんはどうしてるかな。
退院したら会えるかな。
シゲって子にももう一度会ってみたいな。
二人は会えるのかな。
二人が会えなかったら、俺が手引きしてあげてもいい。
勇志さんや勇志さんの元婚約者が邪魔しないように、俺がこっそり二人を引き合わせたい。
家族なんかより、そっちの方がずっと大事。
俺は耳を澄ませた。
雪の音はしない。
妖精もいない。
目を一杯に開けた。
神様はいない。
光は無い。
何も無い。
俺の周りには何も無い。


五感が全部何かに吸い取られていくような感覚に襲われた。
ずしん、と四肢が鉛を持たせられたように重くなる。
やがてその麻痺も落ち着き、俺はゆっくりと振り返った。
そこには院長がいて、
「おはよう。今朝の気分はどうかしら」
と聞いてきた。


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