「それでさ、拓也の姉さんに謝って、事の次第を打ち明けたみたいだけど…拓也ちゃんが誘ったなんてきっと今でも信じられないと思うぜ。その姉貴。絶対勇志さんが悪いって思ってる」
「そりゃそうじゃないの。勇志さんが悪いよ。絶対」
「お前さ、ゲイだからそう思うんじゃねーの。お前ってネコなんだろ。立場的にそう思うんだって。大体お前こそなんだよ。バツイチとか前科者とか障害者とかそういう奴とばっか付き合ってんだろ。同情か?それ同情か?腐ってるよお前。まだ拓也ちゃんの方がマシなんじゃねぇ?」
「マシとかそういう話じゃねーよ!俺は好きになった人がタイプの人なの。お前こそ曲がってンじゃん。拓也ちゃん?平気で姉さんの彼氏取るようなゲイのどこがいい訳?からかってるだけだろ。アハハハ」
俺の乾いた笑いは煙になって上に上に登っていった。

拓也ちゃんと俺の邂逅はココまで。
あとの拓也ちゃんを俺は知らない。
この後いくら徹が拓也ちゃんの話をしても、俺は聞く耳を持たなかったし、勇志さんを問い詰めるつもりもなかった。
静かな森の眠れるお姫様は、もういなくなった。

つまらなくなって、俺は家族と相談して、転院を院長に願い出た。
すると院長は意外なことをいった。

「このまま退院させてはいかがですか」

俺も家族も驚いた。この前脱走騒ぎを起こしたばかりだったのに、こんなに早く退院許可が降りるとは思わなかったのだ。

「実際、悪影響なんですよ。本当は」

と院長は言った。

「先日の脱走事件といい、なにかといえば湊さんは事件に関与しています。他の患者に迷惑なのです。転院を希望されましたが、こう言ってはなんですけど、他の病院に紹介状をかけるような状態ではありません。リストカットや鬱状態が長く続いていますが、却ってお家で療養された方が治療しやすいのではないかとも考えられるのです。どうでしょう。ご家族が湊さんを受け入れる体勢ができましたらこのまま退院…」
「退院させて下さい、お願いします!」

そう言って椅子から滑り落ち、額を床につけて土下座した母を見て俺はうんざりした。










もう明日退院になる。
大学ノートも三冊半になった。毎日書きとめたものが俺の力になる。




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