退院したという。
最後に見たとき、拓也ちゃんが回復しているようには見えなかった。
どういう目をしていたら拓也ちゃんを退院させる事ができるのだろう。
ここの院長は何を考えているんだろうと思った。
もしかして、と少し思った。
拓也ちゃんと院長はデキていて、拓也ちゃんを外来で通わせてなにかいたずらしようと企んでるのじゃないかと。

しかしそれはいくらなんでもやりすぎだ。
俺は自分の汚らしい考えに自己嫌悪に陥った。
拓也ちゃんにはそんな事をしてはならないのだ。
とにかく、拓也ちゃんはいなくなった。
俺の前から姿を消した。
一瞬で消えてしまう、俺の子豚の妖精のように、いなくなってしまった。
勇志さんがいなくては、俺は他の患者と満足におしゃべりもできない。
徹となんか口を利きたくも無い。
俺はそう考えていたのに、徹は勇志さんがいる時と同じように俺に声をかけてきた。
いつもの喫煙室。
馴れ馴れしい奴め。
お前が俺に意地悪なことをしつづけていたのを俺は覚えてるんだからな。
俺はセブンスターの煙を吐き出した。

「これでまた退院が延びたよな」
「そうだね」
「お前、ちょっと体重増えたんじゃねえ?」  
「三キロ増えた」 
「俺も三キロ太った」
「お前これ以上太ったって三キロくらいじゃ見た目あんまり変わんないよ」 
「そうかもしんねぇな」
「ちょっと黙っててくれね?俺反省してるんだから」
「何で?」
「勇志さん一人置いてってること」
「カワイソウだってか」
「そう、悪いか?」
「お前さ、勇志さんが脱走中にどんな女に会いにいったか知ってるか?」
「知らね、関係ないもんそんな事」 
「拓也ちゃんの姉貴に会いにいったんだよ。謝りに行ったんだよ」 
「はぁ?何で?どうして勇志さんが拓也ちゃんのお兄さんに謝んなきゃいけねーの?それ、何の話?」
「長谷川拓也の姉貴な、姉貴って言っても種違いの姉貴らしいんだけどさ。勇志さんの婚約者だったんだよその人。可南子さんていう人でさ。この前退院してた期間に結婚話が持ち上がったんだから…一昨年の話か。勇志さんはこの通りまた入院しちゃっただろ、だから婚約自体はもうおじゃんになってるんだけどよ。
拓也ちゃんがさ、寝取ったんだってよ。勇志さんを。勇志さんが言うには誘惑されたってんだ。これがマジなら酷い話だろ。弟に、寝取られるんだぜ。まぁマジ話かウソなのかはわかんないけど。実際勇志さんと拓也ちゃんは同じ時期に入院してる。拓也ちゃんはそういう癖があるんだってさ。姉貴のものを欲しがるらしい。勇志さんも拓也ちゃんにしてみたらただのモノだったって訳だ」

「だから勇志さんは拓也ちゃんの事を苦手がってたの?それにしたって何かおかしいよ。普通そういう仲になって、親戚一同驚かせたんなら、同じ病院に入れる訳ないじゃない」
「拓也ちゃんから見たらただのモノなんだって。それに両方の親たちは拓也ちゃんが誘って勇志さんをハメた、まさにハメたんだな、そうは思ってないんだよ」
「そう思わせないようになってるのね」
「そう、悪い奴さ」
「そんな魔性の男が好きなの、徹って」
「俺をもっとキチガイにさせるなら男でも女でも好きさ」

徹はそう言って、ピースに火を点けた。



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