シゲくんの顔写真を三枚、全身が写っているのを一枚撮って、もう一度家に舞い戻ってそれをプリントアウトした。
徹はその間にシゲを家に戻して、捕まるまで友達とカラオケに行くと言っていた。

カオル兄さんは娘の所に行くと言っていた。

今日は学校のある日だし、会えるかどうかはわからないとも言っていた。

アオちゃんは、実家に戻って、飼い猫のハチと遊ぶと言っていた。

ぐっさんも玉田さんもヨウスケさんも、皆一度は家に戻るらしい。

勇志さんだけは違っていた。
勇志さんは、女の所に行った。 
勇志さんは拓也ちゃんのおかげで女性恐怖症になっているらしいけど、たった一人だけ、愛している女性がいるんだそうだ。

その彼女に会いに行く、と言っていた。

みんな、捕まるまでは時間の問題だ。
殆ど全員が自宅に帰ってきているのだから、すぐに捉えられてもおかしくない。
俺も早く家を出なくちゃ。
そしてできればこっそり、病院に戻りたい。
つかまれば、時間を掛けて撮ったこの写真は没収されるかもしれない。
病院に戻って拓也ちゃんに写真を渡したい。

シゲの写真はよく撮れていた。
早く見せてあげたい。
拓也ちゃんの王子様を。

妖精が見えた。

妖精はいつもこんな風に突然現れる。

子豚のような鼻の妖精たち。
羽音がうるさい。
ぶんぶん俺の周りを飛び交う。
これは俺がハッピーな気持ちになっている証拠だ。
妖精は、俺が楽しくなってるときに現れるのだ。
そう、俺はワクワクしている。

今日の午前中の脱走劇よりも、今の俺の方がわくわくしている。

脱走は本当に上手くいった、この前と同じように俺は二〇五号室の窓ガラスを、近くに誰もいないのを確認して、割った。
割まくった。
他の部屋から女の患者の悲鳴が聞こえた。

俺はその声に反応してヒステリックにもっとガラスを割ろうとした。
それを勇志さんが止めた。

「ヒロキちゃん、もう十分だ。急がなきゃ」

俺の左手首をぎゅっと掴んで、勇志さんは俺をデイルームに連れて行った。
他の面子はもう外に出た後だった。
最後の二人が俺と勇志さん。
俺がまず先に、上の窓によじ登って外に出た。
勇志さんがそれに続いて、重そうな体を揺らしながら上がってきた。

脱出成功。

俺たちは、それぞれの行くべき場所に向かったのだった。



←BACK← →NEXT→



×
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -