拓也ちゃんには悪いけど、美少年には思えなかった。
普通の、いや普通よりもちょっと見劣りする子供だ。
袖の汚れたトレーナーを着ている。
ジーンズも、膝の所が破れている。

「遅れてゴメン」

俺は二人に謝った。

「遅ぇよ。シゲだって用事があるんだってよ。謝れ」
「謝っただろ」
「早く写真撮れよ」

徹の言う事はいちいち腹がたつ。
俺は徹を無視してシゲに声を掛けた。

「こんにちは。はじめまして。写真、撮らせてくれる?」

シゲは黙ったまま俺を見つめた。

「シゲくん?」
「拓也ちゃんはどうしてるの」

ここに拓也ちゃんがいるのが当然、というような口調だ。

「拓也ちゃん?徹、お前、拓也ちゃんの話してないの?」
「また鬱になったってのはした。それだけ」
「それだけって…うん、あのね、拓也ちゃんはまぁまぁ元気にしてるよ。この間まですっごく元気に、歌とか唄ってた。話もできてたし」
「今は?今はどうなの」
「今は…寝てる」
「じゃあ眠り姫になったんだね」
「そう!そうなの、眠り姫だよ」
「ずっと眠っててほしいんだ、拓也ちゃんには。俺がね、…俺が、拓也ちゃんの目を覚ましてあげるから、それまで眠ってて欲しいんだ」

シゲくんのその台詞だけは王子様のようだった。

「ねえ、シゲくん。俺もリスカーなの。傷の見せあいっこしねぇ?」

俺の言葉にシゲは驚いたらしかった。
ギョッとした目で俺の左手首を見つめた。

「今は入院してて切ってないけど、ホラ、傷跡。結構すごくね?シゲくんはどんな切り方するの?見せてくれる?」

そう言うと、シゲは大人しく自分の右腕を差し出した。

「左利きなんだ」

ちょっとうつむき加減に、恥ずかしそうに言う。

「学校には行きたくないんだ。拓也ちゃんと一緒に暮らすんだ。拓也ちゃんと一緒に暮らすまでは死ねないんだ。切っても切っても、死ぬことだけは許されないんだ。拓也ちゃんに怒られるから。切ってもいいって言ってくれるんだ拓也ちゃんは。その代わりに生きていてねって。その約束だけは守るんだ」

シゲはそう言って、手を引っ込めた。
俺は満足した。




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