「マジなの、勇志さん」
「マジも大マジだよ。最近つまんないだろ。拓也が躁になって病棟が一荒れするかと思ったけど、実害があったのはヒロキちゃんだけでしょ。つまんないよ」
「つまんないって何よ。俺が拓也ちゃんにいじめられたら良かったっての?」
「そういうんじゃないよ。ドラマがね、足りないなって。外の世界と違って此処は毎日淡々としてるだろう。それが療法なんだろうけどさ。でもつまんない。なんか盛り上がることがないとって僕は思ったんだ」

そう言うと勇志さんは胸ポケットからラークを取り出し火を点けて、すうっと吸い込んだ。
俺も負けずにセブンスターに火を点ける。
手が震える。

「じゃあ教えて。どういう手順で何をするのかを」
「手順なんて!」

勇志さんは笑った。

「ヒロキちゃんのやり方でやるんだよ。今度は僕達みんなで外に出る」
「俺にまた二○五号室の窓を割れってこと?」
「そう、そういうこと」

集まった面子はすごい笑顔で頷いた。








それで俺は今自分の家に戻ってきている。
デジカメを持つつもりだ。
俺はそのデジカメでシゲの写真を撮る。
そしてプリントアウトして、拓也ちゃんに持っていくのだ。

拓也ちゃんが喜ぶかどうかなんていうのはこの際関係ない。
もしかしたら拓也ちゃんは「勝手なことばっかりして!」と俺を怒るかもしれない。
俺は拓也ちゃんを怒らせたいのか?
そうかもしれない。 

家には弟がいた。
弟は二十歳になってまだ定職につかずに家でゴロゴロしている。
俺が帰宅して、「外出届け出してきたから」と言っただけで納得した。
少し頭の足りない子だと兄としては思う。

デジカメを持って。

市立病院に向かう。

俺の家と俺の入院している病院の中間地点にある市立病院。
そこでシゲを連れてくる徹と待ち合わせだ。
俺は自転車に乗ってびゅんびゅん飛ばして二十分後に市立病院に到着した。

ロビーに入る。
大柄な恐竜の徹の姿はすぐに発見できた。
その隣に、腕の細い、背の小さな男の子を見つけた。

シゲだ。





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