「信じないなら信じなくてもいいよ。お前ホントに性格歪んでるな。信用って言葉をしらないのか」
「じゃ、じゃあホントに」
「シゲの本名は高橋滋。今は中学二年生。お前と同じリストカッターとかいう奴。未だに切りまくってるよ。オレが叔父貴にエルボー食らわせたの知ってるだろ。その息子。オレの一族精神科通院者の巣みたいなもんだよ。オレにシゲに、他に欝病の叔母さんとかうちのかーさんとか」
「あんたの一族なんてどうでもいいわよ。で、シゲって子はどうしてるの」
「どうもこうも、学校は不登校。ひきこもリ。っていうかアレは叔父貴が外に出したくないんだな。めんどくさいから臭いものにはフタ…って感じだな」
「そんな…」
「だからさ、実を言うと拓也ちゃんの事はオレは前から知ってたんだよ。シゲの見舞いに市立病院に行った時に見てるんだ。シゲと仲良さそうにしてる可愛い子がいるなぁって」
「そうなの…ふうん…」
「お前、シゲに会いたいんだろ。オレも会いたい。そんで」
「拓也ちゃんもシゲに会いたい」
「そう、そういうことだよな」
「だから何?」
「今勇志さんが来るからちょい待ち。あ、来た来た…」

勇志さんが、カオル兄さん、アオちゃん、ぐっさん、玉田さん、ヨウスケさんを連れて喫煙室に入ってきた。他には俺と徹だけ、誰もいない。

「ヒロキちゃん。一暴れしてみないかい?」

勇志さんは俺ににっこり笑ってそう言った。

「脱走ごっこしよう」

と言ったのはカオル兄さん。 

「ごっこだよ。本当にするんじゃないよ」

とアオちゃん。

「ちょっとだけ外出するのさ、無許可で」

と、簡単に徹が言った。

「この面子で、何しようっての?」

 俺はビビった。
この悪たれ集団に勇志さんの頭脳が入れば怖いものなんて何もない。
そもそもこの病院には世間的に怖いものなんて何も無い人間たちが集まっているのだ。
それでも、まだまだ常識人でしかないらしい俺には、脱走計画はとんでもない話に聞こえた。
成功しても失敗しても、捕まれば全員保護室送りだ。





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