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圭は近に九十四式を向けた。
「俺がまだ人間であるうちに、始末したる。堪忍な、チカ兄」
また、白い閃光。
近との思い出。
春。
桜の木の下。
夏。
生い茂る緑の木々。
秋、暖かな毛布。
冬、
降りしきる雪。
その全てに近と依栖がいた。
圭は銃を下げた。
「なんや…撃てへんのか…」
近が力なく言う。
「チカ兄、『終わり』に来たらええねん…」
「今更や」
「『終わり』は人造の集まりや。チカ兄のプログラムも、きちんと俺が補完する。しやから」
その時、近が倒れた。依栖とエスもぐらりと揺らいで床に手をつく。
背中に、一つの黒い穴。銃痕。
「誰や、撃ったん!」
圭は弾の飛んできた方向を見た。
ラボで見た二人。
八代と林田。ビルの外から歩いてくる。
「近さんは使えなかったな」
「そうだな」
近づいてくる。危険だ。この二人は危険だ。圭がそう感じた時、Kが叫んだ。
「圭、そいつらは人造じゃない。人間だ!」
「なんやて!」
圭が答えるよりも早く、八代と林田は依栖とエスに近寄った。
エスの呼吸が速い。
依栖は瞼を開けたまま倒れているまま。
「まあ、圭さんとKさんが融合しなくても、二人とも殺っちまえばパスワードの解析なんてチョロいんすよね」
八代が眉の無い顔で笑う。
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