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近が細い目を押し開いた。
「なんやと」
「俺が作ったんちゃうけどな。確かに、五歳の時にラボに連れてったんはチカ兄や。チカ兄はラボで最先端の技術で作られた人造やった。人造である自覚の無い、いっちゃん人間に近い人造や。チカ兄は知らんやろけど、最初俺とチカ兄が会うた時、チカ兄まだ十歳くらいのボディやったろ。あれを少しづつデカくしてく為に、俺がチカ兄担当になってん」
圭は悲しく告げた。余りにも切ない記憶の断片。
近は信じられない、といった表情で圭を見ている。
「俺が人造?んなアホな事あるかい…」
「『はじまり』に作られた人造や。俺が、チカ兄を育てた。チカ兄は、俺の兄妹のエスと依栖を、攻撃することはできても破壊することは出来へん。それが、俺が組んだプログラムやから」
「そんな事あるかぁボケ!」
近はデリンジャーを構えた。小さな少女エスの額に銃口を向ける。
「撃つ!撃ったる!」
近が焦るように叫ぶ。だが、近はその引き金を弾くことが出来ない。
「しやから、できへんねん。チカ兄には」
「んなアホな事あるかぁ!」
近はエスを突き飛ばした。隣に立っていた依栖をも弾き飛ばす。依栖が転がる。
「同じ理由で、俺を殺る事もできへんねん」
「もぉ、お終いや、チカ兄」
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