その株は今や大層下落している。
調子に乗りやすいぐっさんがそのまま株を買いつづけていたら、ぐっさんの家庭はとんでもない所までいってしまったと思う。
それに比べたら、ぐっさんの入院くらいで済んで非常によかったんじゃないかって思うのだった。

ぐっさんは煙草貯金や株の他に、もう一つ趣味があった。
それは毎日決まった時間に入るFM局の番組を録音することだった。
その番組はお昼の十二時ピッタリにはじまるから、ぐっさんが昼食の時間に間に合う事は土日くらいしかない。
でも土日は土日で別の番組を録音する為に十二時半に食事の席を立つから、食事の時のぐっさんの周りの席の人はとっても落ち着かない。

一度食事の配給が遅くなった時に、ぐっさんは「時間が無いんだよ早くしろ!」と胴間声をあげて看護士たちに怒りをぶつけていた。
そこまでぐっさんが大事にしているFM録音されたテープ(MDじゃなくてテープ)は、カオル兄さんや俺たちの音楽鑑賞&デイルームでのお昼寝タイム、ブリッジの時間のBGMにされる。

カオル兄さんは四十を過ぎたか過ぎないかくらいのどーんと太った男性で、バイだそうだ。
俺は好みのタイプじゃないらしく、この病院内で一番好きなタイプは誰かと聞いたら「同じ部屋の拓也ちゃん」と答えたから俺も徹も驚いた。
こんなところにも拓也ちゃんのファンがいたのだった。
しかしカオル兄さんにはちゃんと恋人がいる。
患者の中では一番入院期間の長い弘美ちゃんという男の人で、小さくて小柄な、てんかん持ちだった。

実はこの病院にはもう一人、バイの女性がいた。



 
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