俺はもう今回で入院するのは止めようと思っているから、これで皆とはさよならになるだろう。

眠り姫の拓也ちゃんに好かれたのはいいけど、これからどうなるのか、色んな事が不安だ。
と言うのも、その後拓也ちゃんは俺に一切声を掛けなかったのだ。

実害が出るような何かが起こるのかと内心ドキドキしていたのに、少し肩透かしを食らった気分になった。
ただ、躁相になった拓也ちゃんは、眠り姫ではなくなっていた。

昼夜構わず歌い出す。
歌う曲は、今時中森明菜の曲ばかりだった。
拓也ちゃんは若いのに、明菜の曲をよく知っていた。
ファンなのだろうか。
懐かしい少女Aや難破船を聞いていると、俺はヤンキーだった従兄弟の兄さんを思い出した。

それから、トイレに閉じこもって(閉じこもると言ってもカギのかからないトイレだから篭城の意味は無い)必死に謝っている。
誰に謝っているのかはわからないが、
「ゴメンナサイゴメンナサイゴメンナサイ」とか、
「許して下さい、もうしません。私はいい子です。私はいい子です」とかそういった言葉が連呼されている。何に対しての謝罪なんだろう。拓也ちゃんにも神様は降りてきているのだろうか。俺は神様の託宣を聞かない聞き分けの悪い子だけど、拓也ちゃんはいい子ちゃんだから、神様の声に素通りできないのかもしれない。
そう、拓也ちゃんは神様の姿も見えているようだ。
というのも、俺は見たのだ。
拓也ちゃんが夜、「飾りじゃないのよ涙は」を廊下で歌い終わった後、鉄格子のある窓の外に向かって
「ここには来てはいけませんよー。ここは怖いところですよー。帰ってくださーい。さようならー」
と言っているのを聞いたのだ。

←BACK← →NEXT→



×
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -