「湊さん」

 拓也ちゃんは真っ直ぐ俺の座ってる席に近づいてきて、俺の名前を呼んだ。

「湊さん」
「何?」
「男の友達がほしければ、俺が湊さんの友達になるよ」
「何言ってるの」
「俺、今日から湊さんのお友達。こんにちは。よろしくね」

呆気にとられて俺は拓也ちゃんが言ったことを理解できなかった。
拓也ちゃんは、呆然とする俺を置いて、喫煙室から出て行った。
勇志さんが言った。

「拓也、躁相が出てるな。しばらく男子病棟が荒れるよ。ヒロキちゃんも気をつけて」
「え?どういう意味?拓也ちゃんってあんなに話せるの?欝病じゃないじゃん。なんで荒れるの。拓也ちゃんが話をすると男子病棟がおかしくなっちゃうの?」
「うん、まあそうだな。多分ヒロキちゃんは拓也の標的にされたんだと思う」
「標的って何よー!」
「拓也の標的さ。拓也はヒロキちゃんの事を友達って言っただろ。好かれたのさヒロキちゃんは。でも拓也に好かれるってのはとんでもないことなんだ」
「とんでもないことなんて。嫌だよめんどくさい事は!どうにかしてよ勇志さん」
「うーん…」

そうだった。
勇志さんは、たった一人だけこの病院内で苦手な人物がいたのだった。

長谷川拓也ちゃん。
勇志さんはその昔拓也ちゃんがまだ中学生だった頃に拓也ちゃんに「好かれて」しまったのだという。
それ以来拓也ちゃんのことを避けている。

具体的にどんな事をされたのかはわからないけど、勇志さんがそんなに嫌う位なら、よっぽどの事があったに違いない。
なら尚更拓也ちゃんと仲良くするのは避けたい。

拓也ちゃんも勇志さんも、長いことこの病院のお世話になっている。
俺も人の事は言えないけど、俺の三回っていうのは少ない方だ。

俺はいつも入院期間が二ヶ月〜三ヶ月と短いスパンなのに対して、勇志さんやそれから徹、カオル姉さん、アオちゃん達は長いスパンでしかも何度も出入りしているというのだから、一生の内のかなりの割合を病院の中で過ごしていることになる


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