俺はどこにでも順応する。

今まで働いてきたバイト先や会社でも、俺は簡単に順応してきた。
でもそれは俺の表面をツルツルと滑っていく。
俺の本心は全然順応しないで、お願いだから俺に構わないで、俺に触らないでと訴え続けて来たような気がする。

入院していても同じだ。

俺はいつも、パニクって手を傷つけて錯乱状態で入院してきたけど、入院してしまえばとても落着いて、誰よりも模範囚になる。
模範囚になったはいいけど、本心では暴れたくてウズウズしている。
以前入院した時は、そのウズウズが止められなくて、脱走した。

デイルームの大きい窓には檻がつけられていたけど、その上の小さな空気窓には鉄格子がはめられていない。
俺はそこから脱走した。
手順は到って簡単で、デイルームに置いてある会議椅子をガターンと一発ニ○五号室の窓に当ててガシャンと割って、看護士たちの注意をそちらに引きつけておく内に、俺はさっさとデイルームの上の小窓から脱出したのだ。

脱走には別に理由は無い。
俺は好きで入院してきた希望者なのだし、脱走したって捕まるのはわかっていたから、何のための脱走なのか、と聞かれても、それは暇だったからだよ、としか言い様が無い。
脱走したその日の夕方に俺は看護士に捕まって、それから一週間、保護室に入れられた。

勇志さんはその時すでに半年間入院していて、俺はその時から勇志さんの親友になった。
勇志さんは保護室から帰ってきた俺にラークを一本譲ってくれて
「ご帰還お疲れ様」
と言ってくれたのだった。

俺も一見模範囚だったけど、勇志さんもそんな「一見模範囚」の一人だった。
本当の模範囚は、棟の中の色んな仕事を買って出て、早くここから退院しようと画策を練っている人たちで、俺や勇志さんは大人しく過ごしているように見せかけて心の中では事件を起こす算段に夢中で、そのくせ実は入院しているのが一番幸せというアンビバレンツな人間たちだった。




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