俺より四つ年下というその男の子はいつもベッドに寝ていた。
他の患者もよく昼寝をしていたけど、眠り姫は、食事の時間もボンヤリと外の景色を眺めていたり、昼も夜もなくずっとベッドに横になっていた。

拓也ちゃんという。

はじめて拓也ちゃんを見たとき、拓也ちゃんは休憩室の窓際でまどろんでいた。
薄く目を開けて、起きているのか寝ているのかわからなかった。
どうやら拓也ちゃんはいつもそういう状態らしい、と言う事がわかった。
その日の夕食の時で、デイルームの中で拓也ちゃんの座る後姿を見た。
食事を取りに行こうともせずにボーっと外の景色を眺めていたのを観察していたからだ。

拓也ちゃんと同じ部屋に住んでいるカオル兄さんに、拓也ちゃんのことを聞いてみたら、拓也ちゃんは躁鬱病なのだそうだ。
今はずーっと長い事鬱相が出ているらしくて、日がな一日ベッドの上で何もせずに暮らしているという話だった。
先週、週に一度の買物の日に、拓也ちゃんやカオル兄さんの部屋の人たちが並んでいたら、拓也ちゃんはその行列に耐え切れなくなったのか、くるりと踵を返して自分の部屋に戻ろうとした。
俺は咄嗟に拓也ちゃんの前に出て彼を止めようとしたら、拓也ちゃんは俺の横をすぅっと抜けて、さっさと部屋に帰ってしまった。
妖精のような動きだった。

妖精っているんだ。

俺にしか見えないものの内の一つで、小さな形をしていて、人間の形はしていない。
豚に良く似た生物で、尻尾は長くて背中にトンボの羽がついている。
その妖精は動作が機敏で、その時の拓也ちゃんは正に俺の妖精にそっくりな動きをしたのだった。

カオル兄さん、ぐっさん、玉田さん、ヨウスケさん、他にもたくさんの友達ができた。
今回の入院は楽しい生活を送れそうだ。

今回の入院で最後にしよう。
もう、戻らないつもりで、最後の入院生活を満喫しよう。そう決めた。


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