俺が「湊ヒロキ」だって判った時には徹は耳まで真っ赤になった。
自分がいじめていた相手と仲良くしようとした自らを恥じたのか、それ以上に理解できなかった自分に対して怒りを感じたのかは判じかねた。

それから、なんとなく、俺は、徹たちと仲良くグループ行動することになった。
なんとなくなんだけど。
俺は正直言って、徹の事はなんとも思っていなかった。
子供の頃はどつかれたりひっぱたかれたりしたけれど、今の徹は牙が抜け落ちた狼みたいなもので、見かけ上は大人しくしていたから怖くはなかった(それでも時々アオちゃんの言ってる事があんまり馬鹿げていて、頭を叩いたりしていたけど)。

勇志さん。
勇志さんという人が徹を制御していた。
自称統合失調症の三十五歳・独身貴族。
貴族とあだ名されてるだけあって、家柄はすごく良いそうだ。
俺は詳しくは知らないけれど、隣の市で一、二を争う大金持ちの家のお坊ちゃまらしい。
弁護士を目指そうとして何度かの挫折、それで病気になったという話だ。
それは勇志さん本人の口から聞いた。

勇志さんは徹以外の患者にも慕われていて、信頼が厚かった。
勉強が出来そうな人間に、精神病の人間は弱いのだった。
俺はバカな短大を出ているけど、それだけで他の患者からは

「大学出なんでしょ、すごいねぇ頭がいいねぇ」

と言われたのだった。
弁護士を目指していた勇志さんなんか、もっともっとスゴイのだ。

バカと天才は紙一重とか言うけど、もしかしたらそれは本当の事かもしれない。 
ここの病院だけかもしれないけど、手のつけられない頭の悪いバカ(アオちゃんや徹)か、勇志さんみたいな、勉強のし過ぎでアホになった人の両極端に別れていて、どちらかというと手のつけられないバカの割合の方が多かった。
勇志さんは、機嫌のいい時はいつも見えない鍵盤で何かを弾いている。
クラシックピアノの趣味があるらしい。
俺はクラシックは知らないのだけど、鼻歌交じりに見えないピアノを弾く勇志さんはとてもカッコよかった。

それから、俺が仲良くしていたグループの中にはいなかったけど、俺がこっそり「眠り姫」と乙女チックなあだ名をつけた男の子が一人いる。

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