俺の入院友達を紹介しようと思う。
 
アオちゃん。
アオちゃんは自在に植物を咲かせたり成長を促したりできる宇宙出身者だ。
どこの惑星から来たかは自分でも判っていない。
ただ、いつでも好きなときに芋の収穫が出来るから、以前住んでいた長野で近所の農家の人に怒られて仙台に逃げ帰ってきたと言う話だ。

アオちゃんの、

「オレは植物と話ができるんだ」

っていう話は皆しつこいほど聞かされていて飽きている。
俺は最初はその突拍子も無い発想がどこからきたのかとても興味があったけど、病院内の観葉植物を見るたびに

「ヒロキヒロキ、今この葉っぱが喋ったよ、明日は曇りだから散歩は寒いから止めた方がイイって行ってるよ」

なんていうからめんどくさくて相手にしてられない。

アオちゃんは五十歳前後で、いつもヨダレを垂らしていて、配給の煙草を入院患者同士でセブンブリッジで賭けていて、すぐ負けて煙草の貯蓄が無くなっている。
近いうちに退院して、パスポートを取ってアメリカに行って、アメリカ農業の収穫を助けて、大統領にお褒めの言葉をいただく予定らしい。

徹はそれを聞くといつも
「じゃあ大統領の前で恥かかないように英語覚えなきゃいけないな」
とアオちゃんをからかう。
アオちゃんはアオちゃんで本気になって
「どうしよう、オレ英語わかんねーよ。徹、原稿書いてくれ、カタカナで書いてくれ」
って必死になって言うからまた徹にからかわれる。徹は意地悪だがそれは小学校の時から変わらない。


徹。
徹は小学校の時の俺のクラスメートで、無口で内気で既にゲイの自覚があった俺を標的にして、クラスの皆を扇動して俺をいじめていた。
中学に上がってもそれが続いた。
俺が高校を遠く離れた私立校にしたのは徹の所為だと言っても過言ではないと思う。
その因縁の深い徹と、こんな病院で再会するとは思いもしなかった。
よく小学校の時に男の子が好きな子をいじめるのは好きだから、という理由がネタにされるが、それは当然男女の話であって、俺と徹の場合はそれには全然あてはまらなかった。

まず徹は本当に俺を嫌っていた。嫌っていたというよりも蔑んでいた。俺を虫のように思っていた。
俺は俺で、美形でも可愛い子でもなかったし性格だってよくなかったから、何がどうしたって徹が俺を好きっていうのはありえない。
第一徹はゲイではなさそうだし。

徹は、親戚一同全員集まった席で、実の父親をグーでタコ殴りにして、それを抑えようとした叔父にエルボーを食らわせて、兄の妊婦のお嫁さんの腹を蹴飛ばして大暴れしたらしい。
それが、去年のお盆の話。

妊婦の義姉さんが無事出産を終えても徹は病院から出られなかった。
徹は病院で二回目の正月を迎えようとしている。

徹は最初俺に気が着かなかったらしい。「湊ヒロキ」という名前も思い出さなかったようだ。往々にしていじめた方は、いじめられた側の事は覚えていないものだと痛感した。

小学校の時から数えたら、十年以上は経っている。
小学校から中学校の時の俺はコロコロと太っていた時期だったから、徹がこの痩せこけた俺をみて「湊ヒロキ」を思い出せなかったのは無理も無いと思う。
だけど、俺の方はしっかり覚えていたから、徹が病院内ではじめて俺にかけた言葉が
「なんで入院してきたの?普通に見えるのに。何かあったの?」
なんていうナンパな言葉だったから思わず口に含んでいた番茶を吹き出して徹の顔にかけてしまった。
ヤバイ、殴られる、と思ったけど、徹はまだ気が付いてなかったらしくて
「ごめん、驚かせちゃったカナ?」
って言ったから今度は本当にビックリした。

あのいじめっ子だった徹とは大違いだ。
入院して何かが変わったんだろうか、と思ったけどそうではなくて、ただ本当に俺に気が付かなくって、本心から優しい言葉を掛けたつもりだったみたいだ。
驚きの連続。


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