男は、俺がいきなり気が狂ったように(俺は実際気が狂ってるのだけど)カッターを取り出し左手首が血まみれになるまで切り刻んだ姿を見て怖くなったんだと思う。
勝手に俺の外見だけを好きになって、自分に都合が悪くなったら簡単に捨てられる奴だと思った男が悪いのだ。
俺に失礼じゃないのか。
気に入らない。
俺にか弱いネコの像を結んでおいて、実際はそうじゃなかったからって捨ててしまえる何てひどいじゃないか。
ひどい。
ひどいよ。

なんか、泣けてきた。
情けないからもう男の事は考えないようにしよう。
そう思っていても、夜になると眠れなくて、病院のベッドの上、であの男は今頃何をしているんだろう、子供に美味しい夕食を作っているんだろうか、俺が今入院しているのを知ったら少しは俺にしたことを反省してくれるだろうか、謝ってくれるだろうか。
悪かったと土下座でもしてくれるだろうか、そんな無駄なことばかり考えている。
未練たらたらで自分でも情けない。
そもそも俺が入院する時はいつもこうなのだった。

好きな男に裏切られると左の手首をカッターで切りまくって、血がたくさん出て、貧血になってるところを家族に発見されて病院に連れてこられるのだ。

中学生の時もそう、短大生の時もそう。
俺は男に「裏切られた!」と思うと気が狂うのだ。

それは父親の所為でもある。と、思う。
俺の父は俺が小学六年生の時に女を作って家から出て行った。
未だに母はその父と離婚していない。
なんの未練があって離婚しないのか。
謎だ。
でも俺は父に裏切られたと思った。
その時はリストカットはしなかったけど、以来「彼氏」ができて、彼氏が俺の思う通りの人間じゃなかったりすると、俺はこっそり自傷行為に耽るようになった。

幻覚と幻聴が出て来たのも、中学生の時の彼氏が俺にナイショで俺の女友達とセックスしたって告白した頃からだ。

はじめは町を歩いていると聞こえてきた。
誰が喋っているんだろうと思った。
誰かが俺のことを見つめて何か喋っていた。
車の、タイヤだった。

車が走るたびに俺に何かを言ってくる。


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