一番いかれているのは頭だ。
脳味噌だ。
派手にとっちらかっている。
正しい回線に繋がれていないんだと思う。
俺のシノプシスは、色んな方向に伸びて、結局間違って配線されている。

おかげで他人には見えないものが見えていて、聞こえないものが聞こえているようだ。
俺の向かいのベッドには入院患者はいないらしいけど、俺の目には知らないおばあちゃんがちょこんと座っているのが見えている。

トイレに入っていると、どこからか神様の声が降りてきて、俺に注意を促す。
「ここのトイレはカギが閉まらないから気をつけて!もししている途中でドアが開けられたら三ヶ月寿命が縮まるよ!」

訳がわからない。
まったくわからない。
幻聴も幻覚も当たり前のように存在していて、他の生きている人間と区別がつかない。

入院患者は、俺が聞いてる幻覚よりも訳のわからないことを言うので面白い。
話に意味が全く無い。
通じない。
それは外の世界でも同じだったから、そういうことは気にしない。
大体、言葉で意思の疎通が可能だって思ってる事自体間違ってるんだから。
馬鹿げている。
自分と他人はいつだってわかり合えない。
わかりあえるはずがない。
言葉は無力だ。

俺は失恋をした。
入院直前に失恋をした。
相手は三十歳になるバツイチの男で、一重瞼が涼しげで、優男だ。
こいつが俺を裏切った。

そう。
俺はゲイで、しかも不倫なんかしてた訳だ。

バツイチのこいつには、奥さんに委ねられた子供が二人いて、月に一回だけ父親のこいつと子供は面会できるようになっていた。

俺はそれを承知でこいつとつきあうことにした。

今時離婚は珍しくないし、離婚して別居している父親と子供が会うのは別段どうってことはない。
それは当然の事だと思う。
けど、俺は、バツイチのこの男が、子供の一人を引き取ると言った時、「この男バカじゃねぇのか」と思った。

こいつは、俺に「子供とは一月に一度しか会わない。ヒロキと一緒に過ごす時間を大切にしたい」と言っていたのだ。
俺が、それは約束と違う、と訴えて、目の前で俺の左手首をカッターで切ったら、俺じゃなくて男の方が錯乱状態になって、俺は自分ちに連れて来られて、「落ち着いたら連絡するから」と言ってそいつは帰っていった。
その後、俺が男の携帯に電話を入れたら、この番号は現在使われておりませんの音声が流れてきて、俺はやっとあのバカな男に裏切られたんだとわかった。

裏切られたのか?
最初から愛されてなかったんじゃないのか?
俺の外見は、自分で言うのも変だけど、か弱そうで、その手の男から見たら守ってあげたくなるタイプだろうと思う。
それはただ、痩せすぎている四肢の所為なんだけど、その容姿は俺の内側にある熱くて燃え滾っているマグマのような爆発性の性格を上手く隠していた。

俺を裏切って、それまで一緒に住んでいなかった子供を選んだ男は、父親としては立派なんだろうと思う。
でも俺は裏切られた。
男は男性としては最悪だ。
俺にさよならもいわずに携帯の番号を変えて俺の前から姿を消した。
俺は男の家を知っていたから、夜に忍び込んで火を点けて殺してやろうと思ったけど、思うだけにしておいた。
俺の内部は溶岩流だ。
俺は心の中で男を殺した。


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