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「杉浦さんが女だったら僕即結婚申し込んでますね」
「なにを…」
何をいきなり。
資料を選別している最中だった。
会議用のテーブルを前にして、数多くの資料をより分けていた最中に、いきなり。
菅野は何を言い出すかわからない。
怖いと思う。
「あのねかんちゃん」
「なんですか?」
隣の菅野が目を弓なりにした笑顔で覗き込んできた。
ニヤニヤニヤ。
この笑い方。
背中がゾクゾクしてくる。
なのに何故か、好きなのだ、この笑った顔が。
「僕みたいな大きな女がいたらモテないね、確実に」
「187センチでしょ?いますよそういう女性」
「日本には少ないだろうね」
「杉浦さんが日本にいなくたって、僕は宇宙中探しに行きますよ。なんてね」
なんてね。
冗談か。
「杉浦さんはちょっとズボラで面倒くさがり」
「うん、そうだね。僕面倒なのは苦手なんだ」
「考えることは好き」
「うん。考えることまでは好き。実行に移すとね、大体頓挫する」
「僕と逆ですね。僕は即実行しちゃうからなぁ。考えるの苦手なんですよ」
「そうかい?そうは思わないな」
菅野は頭がいい。
頭が良いというよりも、賢い。
ずる賢いと言ってもいいかもしれない。
突っ走るのが上手なのは、逃げ上手でもある証拠だ。
自分はそんな風には出来ない。
ゆっくりと、仕事をこなす。
出来ることは出来るし、出来ないことは出来ない。
ただ、出来るようにと心がけて行くだけだ。
菅野は。
菅野は出来ないことさえ出来るといい、実行に移してしまう。
そしてソツなく成功を収める。
賢いのだろう。
羨ましく思う。
「杉浦さんみたいな奥さんがいいなぁ。のんびりしてて」
「僕かい?ダメだよ、何もしないよ、家の事なんか」
「女になれば違いますよきっと」
菅野はウヘヘと妙な笑い方をした。
ならば菅野こそ。
自分も、菅野が女性ならばと思う。
小さくか細くか弱そうな…可愛い顔をした気の強そうな。
「あ、ダメだ」
呟いてしまった。
「何がダメなんです?」
「いや、なんでも…ああ、この資料…ノンブル間違ってるよこれ。おかしい」
「あ、本当だ。刷り直しですねここだけかな?いいのかな?」
ダメだ。
菅野はダメだ。
結婚してもきっと浮気する。
何故ならモテるから。
不安でならない。
今でさえ不安なのに。
菅野本人には伝えた事はないが、不安だ。
不安なのだ。
例えば安東マネージャー。
仲が良すぎる。
年が近いせいもあるだろうが、杉浦との約束を反故にしてまで仕事の打ち合わせだと言って飲みに行ったりさえする。
何もないのはわかっている。
自分たちが少しおかしいだけだ。
結婚をし、女性を好むのに恋人は同性。
それは普通ではない。
だから安東と菅野がそんな事になっている訳もないのに。
妄想が広がりすぎて不安になる。
自分がこんなにも嫉妬深いとは思ってもいなかった。
菅野と出会って知った感情。
「生まれ変わったら結婚しましょうね」
「やだよ」
「うわーはっきり言うなぁ、珍しいですよ杉浦さん」
「嫌だよ。かんちゃんとは結婚なんかしないよ」
「じゃあまた不倫ですか」
「…そうだね」
それがいいに決まっている。
杉浦は自分の感情にさえ嘘をつく。
20091222完
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