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「どこに行くつもりやねんジブン」

声をかけても返答は無い。
擬似体だからだ。
思考は持たない。
一応、腰のホルダーから九十四式を取り出しておく。
依栖を追う。

マンションの入り口に立つ。
壁のパネルを見ると、音声認識タイプの扉。
これ以上は侵入できない。
そう思った時、大きな音がした。

依栖を見る。
依栖が強化ガラスの入り口の扉を足で踏み抜いていた。

「ジブンむっちゃガサツやな…本体以上や」

依栖は続けて片腕を振り下ろした。
ガシャン!とガラスの割れる音がする。
完全にオープン状態になった。
中からサイレンが聞こえる。

「何してんねん。見っかってまう」

依栖の腕を掴み逃げようとした時、声が聞こえた。
サイレンが止まる。

「そちらから来るとは思ってなかったな」

K。

マンションの廊下の奥から黒いロングコートにサングラスの男がゆっくりと歩いてきた。

「こっちもジブンが出てくるて思てなかったわ。依栖が勝手しよんねんもん」
「それは、依栖が戻りたがってるからだ」
「どこに」
「『終わり』に」
「もうホンマ意味わからへん。どないなってんねん」
「事故の事は何も思い出せないのか」 
「思い出すも出さへんも無い。全く記憶に…」

一瞬、脳の中で何かが白く光った。

何かを思い出しそうになった。

「なんや、今の」
「…圭。もうそろそろそのボディはおしまいだ」

悲しいトーンでKが告げる。

「どゆ意味やねん」
「その体は最低限の部分でしか人造じゃない。完璧な人造のボディに替える必要がある」
「どないせぇっちゅうねん」
「俺のボディを渡す」
 
圭はKを見た。
何を言っているのか全く通じない。
通じてこない。

「事故の話をしてやる。何故緘口令が敷かれているのかも」
「おう。言うたれや」

圭は毒づいた。
自分自身が生身ではない事にももう驚きではない。
真実を。
真実だけを知りたい。

「最初に質問する。お前は、『はじまり』と『終わり』がなんなのか判っているのか?」

Kの問いに圭が首を傾げた。

「それが何の関係あるん」
「関係はある。答えろ」
「知らん。よう知らん。『はじまり』も『終わり』も、政治家の集まりやろ」
「それだけの認識しかないのか」
「それだけもこれだけも。だって、しやろ」
「『はじまり』は使役する人間達だ。『終わり』を支えているのは、人造のモノたちだ」
「え」
「人造と呼ばれる俺たちが、『人権』を主張した。使役する側の人間達がそれを阻止しようとした。だから正式には『終わり』は政治結社じゃない」
「そうなん。でもわからへん。俺は人間やったんちゃうん。俺は、元から『はじまり』におったんやろ。俺と、依栖は」
「そうだ。お前は5歳の時に近兄さんに連れられて大阪のラボで教育された。優秀な人造を作る為の研究員として。そして10歳の時に兄と妹を作った。それが依栖とエスだ」
「そうなんやろな。思い出せへんけど」
「もう一度質問する。圭、お前は何歳だ?」
「…依栖が二十歳やねんから、四つ下の、16歳やろ」

圭は言いながら不安になった。

依栖は人造だ。
生まれた時から二十歳なのだ。
圭が依栖を作った時から二十歳。
つまり。

「依栖はいつまでも二十歳だ。もう、お前の、兄の年齢ではない」
「どゆことやねん」
「お前が二十歳を過ぎても、依栖は歳をとらない。お前は幾つだ?」

圭は慌てて壊れていないガラスを探した。
自分自身の姿を見る。
そこには、「少年」の姿は無かった。
青年、と呼ぶにふさわしい男性の姿。

「…わからへん。俺、幾つやねん」
「本当のお前は、二十三歳だ」

圭はKを見る。
自分自身。
コピー。

Kは、身長こそ高いが、十六歳のみずみずしい少年の様に思える。


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