キスが好きなのは自分の方なのだと、杉浦は思っている。

デカい図体をして、自分は甘えっ子で、妻は年上で、自分に管理職は無理があるとも感じてもいる。

仕事にやり甲斐はある。
仕事は好きだ。

「なんとなく」仕事を「なんとなく」真面目に熟していたら、今の役職になっただけで。

対照的な菅野を眩しく感じる理由はそこなのだ。

アグレッシブと言う言葉が、菅野には似合う。
攻撃的なのに、一見柔和で、だから惹かれる。

こんな風であればな、等とどうしようもない想像もする。
身長187cmの自分が、170cm程の菅野に憧れを抱く。
滑稽にも思える。

小さな菅野に振り回される自分を客観的に思い浮かべてみる。
笑える。

菅野が杉浦にキスをねだっているのではない。
逆だ。

忙しなく走り回る菅野を捕獲してまで、杉浦が菅野にキスをねだっているのだ。

菅野くん、ちょっとゆっくりしてよ。
うるさいんだもん、君。
バタバタしてて、僕が落ち着かないよ。
座って。
僕の膝に座ればいいよ。
君は小さいから。

そうして杉浦は空想に耽る。
捕獲した菅野を自分の膝に座らせて。
後ろから抱きしめて。
耳を噛んで。
身をよじる菅野を腕の中で感じて。
唇を合わせて。
菅野の舌を感知するまで自分の舌を挿入して。
唾液塗れにして、菅野を汚したい。
菅野と一体になりたいと、願うのだ。

「鳴ってますよ杉浦さん」
宮川に声を掛けられ、我にかえる。
森山新店の応援に来ていたのだ。
すっかり白昼夢の中だった。

「いらっしゃいませ!月々の本体代金お支払いの無い機種をご用意しております!」
叫んだ。
売り場。
新店の週末、人が多い。
宮川が、自分の長い襟足を神経質そうにいじり、焦った様に杉浦に小声で言う。
「だから杉浦さん、携帯鳴ってますって」
「あ」
着信。
原田店からだ。
オカマの竹中のしゃがれた声を思い出す。
出ない事にした。

用事があればメールがいいんだ。
普段なら、大事な話なら直接電話しろと部下達に言う癖に。
理不尽さに自分で苦笑いだ。
特にこんな、遠征の日には。
僕の白昼夢を邪魔しないでくれよタケちゃん。

エントランスから、菅野の声が聞こえて来る。
姿は見えない。
「店頭でのお支払いのみでこのお値段!安すぎですよ今が買い時!ご主人二台目にどうですかこれ!」
叫んでるね。
仕事してるね、かんちゃんは。

僕だけだ。
甘い夢に酔いしれて、現実から逃げているのは。

また着信。
原田店。
徹底的に無視を決めた。
さて、また脳内でかんちゃんとキスを交わそうか。


20090524完



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