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「動かないで下さいよ」
ビシ、ビシ、とラバーの切れる音が二回聞こえた。
服が解けて体が自由になる。
「スーツケースは!」
「ここです」
林田からスーツケースのハンドルを渡される。
ベッドの上に引き上げて、開ける。
中には。
「依栖」
依栖が長い体を折りたたんで収納されている。
スーツの胸元からメモリーカードを出す。
左耳のスロットに差し込む。
そして自分の左耳の後に触れた。
スロットが、あった。
メモリーカードが差し込まれている。
腕を引っ張り体をベッドの上に転がす。
依栖のスーツの胸元からメモリーカードを出す。
左耳のスロットに差し込む。
そうか、俺も人造やったんか。
それでも謎はまだ残っている。
ならばKは何者なのだ。
あれも人造。
あれは何の為に作られている。
自分が、圭が必要としたものなのか。
圭は何故狂おしいまでに依栖とエスを融合させようとしている。
事故とは。
答えは出ない。
依栖が動いた。
「もっかい、エスを取り戻しに行くで」
ベッドから降りて立ち上がる。依栖が頷いたように見えた。
「俺らと一緒に行きますか」
八代が問う。圭は首を横に振った。
「俺は俺で行く。答えを探しに行く」
依栖の手を引っ張った。
また階下で爆発音が響いた。
部屋を出る。
見覚えの無い廊下。
ここはエスの部屋の上階か。
階段を探す。
走る。
エレベーターの前に出る。
ここは4階。
エレベーターを使わず脇の階段を降りる。
3階。
エスの部屋に二人で向かう。
エスのいた部屋は空だった。
Kがエスを奪ったか。
それとも近がなんらかの処置をしたのか。
周囲は既に火の海だった。
熱い。
髪がチリチリと焼ける音が聞こえる。
「もぉ用無い。行くぞ依栖」
圭は依栖の腕を引き、部屋を出た。
走る。
階段を降りる。
火が回っているが、人造の身体ならば、という思いが沸き上がって躊躇しない。
走る。
ただ走る。
ラボの1階に降りた。
人がざわざわと逃げ惑っている。
銃声も聞こえてきた。
アサルトライフルの音。
近がいるのだ。
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