-19-

「エス…」

圭の目から、液体が一筋流れた。

エスが自分を見つめている。

「何スヤスヤ寝てんねんドァホ…」

握った手で、エスの額を軽く叩く。
エスは虚ろな目で、じっと圭を見ているままだ。
エスは何かを言いかけようとしていた。
口元に付けられたマスクの中が白く霞む。

「え?何?何?どないしたん」

言葉で答える代わりに、エスは頼りない力で圭の手を握り返した。
そしてまた瞼を閉じる。
一瞬の出来事。
圭の後で音がした。
振り向く。

「チカ兄、今、エスが」

だがそこにいたのは自分だった。

K。
漆黒のロングコートと闇の色のサングラス。

圭は繋いだ手を離して立ち上がった。

「何しにきてんねんジブン。エラい堂々と来はったな」

Kは答えない。じっと、エスを見ていた。

「エス取り返しに来てんやろけど、もう返さへんで」
「ああ。エスと依栖、両方が揃わないと駄目なんだ」
「それはこっちも同じ条件や。揃ったは揃た。しやけどメモカは半分以上破損しとる。もう元には戻らへん。ジブンの所為や」
「ああ、俺の所為だろうな」
「エラい素直やん」
「俺にはもう戦う意志がない」
「そうなん。しやったら、もう、帰ってくれ」
「タダでは帰られない。お前が道連れだ。俺とお前も、二人が揃わないと」
「お話そこまで」

近が二人の会話を断ち切った。

「なんですのん、今度は。依栖とエスを一緒にできへんようになったら今度は俺かぃ。どないなってんねん。チカ兄も知っとんのか」
「まあな。しやからお前は何も知らなくてええねん。Kとかいうこのゴッツい奴は」

デリンジャーを構えた。

「俺が始末する」
「兄やん、そな体で!」


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