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「エス…」
圭の目から、液体が一筋流れた。
エスが自分を見つめている。
「何スヤスヤ寝てんねんドァホ…」
握った手で、エスの額を軽く叩く。
エスは虚ろな目で、じっと圭を見ているままだ。
エスは何かを言いかけようとしていた。
口元に付けられたマスクの中が白く霞む。
「え?何?何?どないしたん」
言葉で答える代わりに、エスは頼りない力で圭の手を握り返した。
そしてまた瞼を閉じる。
一瞬の出来事。
圭の後で音がした。
振り向く。
「チカ兄、今、エスが」
だがそこにいたのは自分だった。
K。
漆黒のロングコートと闇の色のサングラス。
圭は繋いだ手を離して立ち上がった。
「何しにきてんねんジブン。エラい堂々と来はったな」
Kは答えない。じっと、エスを見ていた。
「エス取り返しに来てんやろけど、もう返さへんで」
「ああ。エスと依栖、両方が揃わないと駄目なんだ」
「それはこっちも同じ条件や。揃ったは揃た。しやけどメモカは半分以上破損しとる。もう元には戻らへん。ジブンの所為や」
「ああ、俺の所為だろうな」
「エラい素直やん」
「俺にはもう戦う意志がない」
「そうなん。しやったら、もう、帰ってくれ」
「タダでは帰られない。お前が道連れだ。俺とお前も、二人が揃わないと」
「お話そこまで」
近が二人の会話を断ち切った。
「なんですのん、今度は。依栖とエスを一緒にできへんようになったら今度は俺かぃ。どないなってんねん。チカ兄も知っとんのか」
「まあな。しやからお前は何も知らなくてええねん。Kとかいうこのゴッツい奴は」
デリンジャーを構えた。
「俺が始末する」
「兄やん、そな体で!」
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