-13-
プロペラの音、風の音、他に何も聞こえる筈がないのに、圭はエスの声を認識した。
少女の甘い音声。
だが中身はガサツな二十歳の男の物。
エス。
エスだ。
エスが来た。
「圭!おんねやったら早よ逃げや!俺コイツらブっ殺していったるからな!俺の本体は置いてけやぁ!」
「そんな事出来るかぃ!男やったらタイマン勝負せんか!」
「今は男ちゃうわ」
依栖がクスクスと笑うのさえ聞こえた気がした。
強風が次第に引いていく。
圭は目を開けた。
一瞬時間が止まった。
東京市民達の人だかりをモーゼの様に切り開いて、中心に、マシンガンを持った小さな少女と5人の若い男達が立っていた。
見た事のある元「終わり」のメンバー達。
少女は右肩に大袈裟な包帯を巻いていた。
「ほな行くで。大量虐殺」
ギャハハ、と奇声を上げて、少女エスはマシンガンをぶっぱなした。
ダダダダダダ。
連発される。
周りの若い男達も同じく弾丸を放つ。
その標的は東京市民達。
歓声が恐怖の声に変る。
「エス!」
「とっとと俺を始末せんと、どんどん、ホレ!ヒトが死んでくで!」
「やめてくれエス!」
圭が叫ぶと同時に、隣の擬似依栖が無表情で44マグナムを構えた。
撃つ。弾丸は若い男の内の一人の手を撃った。
流血。
それを見てもエスは動じない。
「次はお前や!死ね圭!」
「誰が死ぬかアホ!」
九十四式を構える。
だが手が震える。
エスは撃てない。
←back← →next→
一覧へ