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圭は正直、興味がない。
「はじまり」に来たのは政治的理想があった訳ではない。
依栖が先にいたから。ついてきただけだったのだ。
隣の擬似依栖に声をかける。
「なんで居らへんねやろ。依栖が居らんだけで」
心細い、という最後の言葉は口に出さなかった。
本当に淋しくなるからだ。
マイクがハウリングを起こす。
キーン、と耳が痛くなる。
痛くなるのは左の耳だ。
痛い。
市民達の歓声が更に大きくなる。
幹部の演説が始まる。
来る。
予感がした。
九十四式を腰のホルダーから取り出した。
警備スーツの胸元の連絡用マイクに向かって叫ぶ。
「チカ兄、上から来んで!」
圭は市民達が顔を向けている逆の方向を見た。
釣られるように無表情の擬似依栖もそちらを見る。
高層ビル。
青く高い空を背にしている。
そこから一機のヘリコプターが姿を現した。
圭は認識した。
操縦しているのはK。
軍用にも使えるそのゴツい機体のヘリ。
Kがいるならエスもいるはずだ。
どこに?
ヘリが市民達の上に近づいた。
息も出来ないほどの強烈な風が圭達を襲う。
市民達が逃げ惑う。
特設会場の壁面もギシギシと鳴る。
目も開けられない。
平気な顔をしているのは擬似依栖だけだ。
「ヒトがヒトに見えへんなぁ!」
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