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圭は立ち上がった。
スーツケースのハンドルを掴む。
仕事はきちんとこなす。
圭はただの同志ではない。
捕獲専門のプロフェッショナルだ。
捕獲した元メンバーを更正させられる自負もある。
だが依栖だ。
この本体だけでは依栖とは言えない。
エスの心が必要なのだ。
エスのメモリーカード。
近が何か喋っているが、圭はもう聞いていない。
依栖。
「絶対、取り戻したる」
圭は小さく呟いた。近も立ち上がる。
「事故の後遺症はもぉ無いか?」
「え?」
事故、と近は言った。
圭には思い浮かべるべき「事故」がない。
「何のことですか」
「覚えとらんかったらええねん。よしゃ、俺も行こか。圭、ええ仕事しといてくれな」
「判ってます」
圭はスーツケースを引いて、豪華すぎる部屋を出た。
D区には500人規模の人だかりが出来ていた。
「はじまり」の勝利宣言が市民に告げられるイベント。
会場整理の警備員の格好をして、圭は「終わり」のメンバーがこのイベントを阻止するのを待つ。
阻止を阻止。そして同志の奪還。
スーツケースは既に開けた。
隣には同じくブルーの警備服に身を包んだ擬似依栖が立っている。
183cmの長身の依栖と、それに引けを取らないロングサイズの圭がそこに立っているだけで、緊張感が漂う。
近は圭達とは別の地点で警備に当っている。
人だかりの前の方には青天井の特設スタジオ。
「はじまり」の幹部クラスのメンバーが立っている。
その内の一人がスタジオ中央のスタンドマイクに近づいた。
それだけで集まった市民達が歓声を上げる。
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