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残業に次ぐ残業の毎日。
余りにも過酷な一週間が続いていた。
菅野は九時に上がらせた。
菅野もまた、杉浦と同じように、休めない日々を送っていた。
杉浦には子供はいない。
一方菅野は三人の子供を抱える父親だった。
一週間も会社に缶詰な父親がどこにいる。
いるだろう。
そんな父親はこの日本に多くいるはずだ。
だからなんだ。
子供がいるなら毎日家に帰らなくては。
帰らせなくては。
かんちゃん、今日は家に帰りなよ。
二人ともネクタイなど外し、シャツの袖を捲ってパソコン及び携帯電話と格闘していた。
一瞬、ほんの数十分、メールの着信が途切れた。
夕方の一瞬。
帰った方がいいよ。みっくん、風邪なんだろ。
菅野の長男が病気で寝込んでいると知ったのは、今朝。
もう二日も熱を上げていると言う。
菅野は笑って、
マユがいるから大丈夫ですよ。僕はミツキの病院代稼ぎます。
そう答えた。
そんな話があるか、と杉浦は思った。
更に菅野は言った。
風邪じゃないんですよ、インフルエンザです。
笑って。
菅野くん、そこは笑う所じゃない。
帰りなさい。
今日は定時で上がりなさい。
そう答えると、それでも菅野は微笑むのをやめず、
「定時って、何時です?」
何も言えなかった。
せめてと思い、九時には帰らせた。
そして営業所に杉浦が一人、残った。
昨日までの一週間、所内に二人、泊まりで過ごした。
余りにも過酷を極めた。
疲れがピークに達しすぎて。
二度、セックスした。
疲れると射精したくなる。
男はこれだ。
疲れているのに更に疲労を欲すると言うのか。
ビル内のシャワールームを何度も往復した。
しかしそれも今日で終わりだ。
このデスマーチも終焉を迎えた。
杉浦は手元のキーボード、エンターキーを右の中指でポンと叩いた。
メールが送信された。
これで、終わった。
終わってみると、それはただ少しだけ、いつもより日常業務が遅延していた所為だと思えた。
ただ、いつもより本店の契約で不備が多かった所為だ。
岡部の店舗で法人契約が4日続いただけだし、辺見が外国人の集団客に手間取っただけだし、山中の店舗は在庫数が一桁になっただけだ。
いつもより。
いつもよりやらなければならない事が多かっただけで、こんな物を忙しいなどと口にしているから自分は秋田から出て行けないのだと、杉浦は思った。
売れたじゃないか。
忙しかったから売れたじゃないか。
自分達も忙しかった。
家には帰ることが出来なかった。
スタッフ達は頑張ってくれた。
年間で、一番売れた週だった。
深呼吸をして、杉浦は、立ち上がった。
終わった。
帰ろう。
コートを羽織った。
腕時計を確認する。
11時じゃないか。
どうしよう。
帰りたい。
帰った所で寝るだけだが。
そしてまた、すぐに出勤。
「もう一泊しようかな」
独り言。
少し思案する。
そしてデスク上に打ち捨てていた私用の携帯電話を手に取る。
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