菅野が思っていたよりもカジュアルな私服で杉浦は現れた。

午前9時。
駅前、ファーストフード店の大きなウインドウを背にして。
約束の時間ピッタリに杉浦は菅野の前に現れた。


「ファーのフードとかって。意外と似合いますね、そういうラフな格好」
素直な感想。
挨拶代わりの、本気の褒め言葉。
鮮やかな水色のダウン。

杉浦は恥ずかしそうに頭を掻いた。
「若作りに必死なんだよ、僕」
「杉浦さんは若いですよ」
「六つも若いかんちゃんに言われると恥ずかしいね」

菅野は微笑む。
「イメージ的にはダッフルでした、杉浦さんって」
そう言った菅野がダッフルコートを着ていた。
深い緑色。
杉浦が苦笑する。
「菅野くん、それマストカラーじゃないか」

競合企業のマストのイメージカラーはグリーン。
対抗する自社のカラーはネイビーブルーだが、それは勿論、プライベートでまで着たい色では無かった。

「ピンクじゃ無かっただけマシだと思って下さいよ」
ニヤニヤと菅野が笑う。
ピンクはまた、対抗する企業であるQOQOの色。
そんな派手な色で、こんな目立つ場所に待ち合わせされたら、迎えに行く方が気後れする。

白い息を吐いて、二人で笑いあった。

菅野の背後。杉浦が大きなウインドウの中を目で示す。

「中で待ってたら良かったのに。寒そうな顔してるよ」
「あは、僕すぐ鼻の頭真っ赤になるんですよね、寒いと。入ります?ドーナツでも」
「そうだねぇ…テイクアウトで。車の中で食べようよ」
「賛成です」

ドライブデート。
多分、二人きりで過ごす今年最後のデートだ。
後は年末年始の業務にのめり込むだけ。
だから今日だけは。

二人同時に休暇にした。
店舗に何かあれば、休みであっても容赦なく携帯電話に連絡がある。

大丈夫だ。宮川と秋山に任せてきた。
二人とも信頼出来る部下。

眉間に皺に寄せている宮川の顔が、杉浦の脳裏に浮かんだ。
次に、甲高い声で杉浦を叱咤する秋山。長くクルリとカールされた睫毛が浮かんだ。
『考えられなぁい!二人で休むなんて考えられないですー信じらんないありえなぃー管理職の資格と自覚無しですよー』

杉浦は苦笑してしまった。
それを見て菅野は不思議そうに、微笑みながら首を傾げた。
「どうしたんです?ニヤニヤして」
「いや、秋山ちゃんのね、声が聞こえた気がしてね」
「なんて?」
「いつもみたいな感じの事、言われた気がしたんだ」
「幻聴でも僕は平気でヤキモチ妬いちゃいますけど」
「そうなの?」

菅野に嫉妬の感情など皆無に思えるが、それは口にしなかった。
それにニヤニヤ笑っているのは菅野の方だ。

菅野が鼻を啜った。

「あったかいコーヒーがいいね」
「そうですね」

二人並んで、ドーナツショップの自動ドアを開けた。


20091226完


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