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三神アツシは凍えていた。
寒い。
今日はマエデン原田店へ応援に来ている。
常駐ヘルパーの佐上ヒメがインフルエンザで倒れたのだ。
ヒメの代打で原田に入るのはこれで何度目だろう。
偶然なのか、わざとなのか。
マストの営業担当早乙女リョウは、三神が原田に来る時に限って顔を出す。
どこからその情報を仕入れて来るのか。
ヒメ経由なのだろう、きっと。
休憩中に喫煙所で一緒になった。
三神は、早乙女を好きになれない。
早乙女はゲイである事を公表している。
それはエルデータの竹中もそうだし、マストのヘルパー、テルカとモコは付き合っている事さえオープンにしていた。
それは気にならない。
自分には関係無いからだ。
竹中にはいつも、
「あっちゃんは顔が怖いからダメ!年下だしぃ?タケはやっぱり上品年上が好きだわ!」
と言われる。
テルカは男性には全く興味が無いと言うし、モコはテルカに夢中だ。
その二人の上司、マストの営業担当早乙女リョウは、QOQOのヘルパー三神アツシに夢中。
一方三神は無理めの派手めな女が好きだ。
チャラいホスト崩れみたいな早乙女は、一番嫌いなタイプだ。
だが確かに仕事は出来る。
似ていると言われるのは心外だが、早乙女も三神も、接客スタイルはナンパモードだ。
好みのタイプの客を徹底的に集中攻撃。
三神などはその上、契約中にデートの約束も取り付ける。
これが楽しくてやっているのだ。
同性に好かれても嬉しくは無い。
タバコに火をつけようとしたら、ライターが見当たらなかった。
ホストの様な優雅な所作で、早乙女がライターを差し出した。
着火。
ありがたくは無いが、タバコをくわえて点火する。
早乙女はにこにこと幸せそうに笑っている。
「三神さん今日何台?」
「現状2台。機種変」
「新規の予約とか無いの?」
「無いな。まぁマストからMNP狙ってるけどね」
「手強ぁー」
ケタケタと笑われる。
そんなマストは機種変更だけで6台出していた。
エルデータは確か、新規2台。
原田店にしてはかなり良い成績だ。
だがこれだけでは満足出来ない。
必ず今日中に新規を出す。
MNPで、だ。
だがそれにしても寒い。
店内が寒すぎる。
指がかじかんでしまう。
契約中にも書類に書く文字が震えてしまう。
早乙女に声をかけられた。
「コーヒー飲めます?奢るよ」
「飲める。ブラックで。奢られてやります」
ふう、とタバコの煙りを吐き出す。
すぐ隣の自販機で、早乙女はコーヒーを買っている。
一方的に男に好かれるのは気に入らないが、奢られるのは気分がいい。
これを「餌付け」、とマストグループが呼んでいるのを三神は知らなかった。
20091224完
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