クリスマスイブは散々の売れ行きだった。
各社共に冬モデルが発売され、ボーナスも出た企業もあるだろうに、秋田県内は全く業績が伸びなかった。

ああ、かんちゃんに叱られる。

そう思い、杉浦は憂鬱になる。

まあクリスマスプレゼントに携帯電話を買い換えよう等と言う発想も無いのかも知れない。
ただ、エルデータはマスト、QOQOと違い、同社内での通話は家族間以外であっても無料になる時間帯がある。
それを狙ってカップル戦略、とも考えたが、秋田県内での基地局が少ない為売り上げは伸びきれない。
毎年の事だ。

本日中の業務を終えて、帰宅した。

妻がワインとケーキを用意していた。

後回しにして、映画でも観にいかないかと誘うと、妻はにっこり微笑んで、レンタルしてきたDVDを目の前でチラつかせた。

アメリカ製のテレビドラマシリーズの新作だった。
以前は一緒に見ていたが、最近は仕事が忙しくて付き合っていなかった。

「もうシーズン8なの、それ」
「そうよ。カレンとアレックスは死んじゃったわ」

カレンは思い出せた。
確かFBIの捜査官。
アレックスとは誰だったか。
主人公の従兄弟がそんな名前だったろうか。

グラスに唇をつけて、少しだけ湿らす。
赤いワイン。
もう今日のことは忘れよう、明日以降、年末年始に販売の全てを賭けよう。
そんな事を思っていたら、飼い猫が傍にやってきた。

静かに、鳴く。

ヒロキくん、今日もダメだったの?

そんな風に聞こえた。

「そうですよ。僕は今日もダメだったよ。ルルカはどうだったんだい」

くすくすと妻が笑う。

「今日もルルカはお利口さんよ」
「そうだろうね。ミユキもお利口さんでしたか」
「そうですよ。私はいつだってお利口さん」

その口調が少しだけ菅野に似ていて、閉口した。
真似をしたのかとも思った。

また、ルルカが鳴いた。

いっつもそうやってカンチャンの事ばっかり考えてるからだよ、ヒロキくん。

「そうかな」
「そうよ、私はお利口さんだしヒロキくんもお利口さんよ」

ルルカへの返事を自分への物と思ったらしい妻の台詞。

お利口さんならもっと売れるんだろうな。
ルルカが言う通り、菅野くんの事ばっかり考えているからだろうな。
だから売れない。
かんちゃんを意識しすぎなんだ。

東北管内のマネージャーとなった菅野。
追いつけない、追い越せない。
遠い存在だと思う。

今では月に一度から三度、仙台会議で顔を合わせて。
そしてセックスをする。
それだけの関係になっている様な気がする。

菅野の歓心を買いたい。
ただそれだけで今は秋田エリアを見ている。

不純だよヒロキくんは。

ルルカが鳴いた。

杉浦は困ったように眉を顰めた。
テレビに映る、テレビドラマのDVDの画面に視線を移す。

「アレックスって、ゲイの友達だったっけ」
「違うわよ、それはニッキー。アレックスは奥さんの不倫相手」

不倫相手。
アレックスは殺された。

「不倫してたから殺されたのかい」
「ううん、そんなんじゃないのよ。ボブの仕事の関係みたいね」

ボブって誰だったかな。

不倫してたら殺される。
僕はミユキに殺される。
そしてルルカのエサになる。

かんちゃんは少しは悲しんでくれるだろうか。

携帯電話にメール。

画面を見る。
思った通り、菅野からだった。
デコレーションされた派手なメール。

メリークリスマス、とただ一言。
今日の業績については、明日問われるのだろう。

かんちゃん、メリークリスマスは正確には明日言うんじゃないのかな?

泣きたくなってきた。
ルルカが代わりに鳴いてくれた。

にゃー。ヒロキくん、生クリーム頂戴。

「暢気でいいね、猫は」
「そうね、生まれ変わったら私、猫になりたいわ。ルルカのお嫁さんになるの」
「僕はどうなるんだい」
「さあ。菅野さんとお幸せに?」

ワインを咽こんでしまった。


20091223完


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